一番近くて、一番遠い国

2018-09-21 14:57:29

東菜緒

私にとっての中国は、一番近くて、そして一番遠い国だった。「隣人」である中国と日本の関係は、両国を隔てる海よりも深い。古代よりこの国は、中国文化の影響を一心に受け継ぎ、そして変化させてきた。私が日頃用いている日本語も、シルエットの美しい着物も、全て中国から渡ってきたものだ。中国がなければ、今日の日本もなかったと言っていいだろう。そのくらい、日本にとってこの国は、特別なものだ。

しかし一方で、中国という国は、遠い存在でもあった。かつて、帝国主義だった頃の日本が中国や中国の人々に対して為した非道な行いは、彼らを傷つけ、両国の間に大きな遺恨を残した。中国における反日デモは日本でもよく知られ、中国人に対して偏見を抱いたり、彼らは皆、日本人のことを嫌っているのだと、そう考える者は決して少なくない。しかしその誤解こそが、日中を阻めている最も大きな原因なのだ。

私は一時期、カナダの高校に通っていた事がある。移民国家であるカナダには、様々な人種や民族が暮らし、留学生も積極的に受け入れている。私はそこで、数々の中国人留学生たちと出会った。その時、私は一抹の不安を感じていた。彼らと仲良くなることが、出来るだろうかと。自分もまた、中国の人々に対して偏見を持つ日本人のうちの、一人だったのかもしれない。しかしそんな私の想像に反して、彼らは概して親しみやすい人達ばかりで、私たちは思いの外、すぐに打ち解けることができた。そして、それから暫くした、ある日のことだ。学校で、好きな国をひとつ選び、その国についての歴史や文化を調べるという内容の授業があった。私は、迷いなく中国を選んだ。正直に言えば、自分には「好きな国」というものがなく、中国のことも、別段好きだというわけではない。それでもこの国を選んだのは、ここで多くの中国人と出会い、友達になって、彼らの住んでいた国について、もっと深く知りたいと思うようになったからだった。そんな中で教師は私に、どこの国を選んだのかと尋ねた。当然中国だと答えたら、それを聞いた中国人留学生達が、目を丸くして驚いていたのを、よく覚えている。私はそれを不思議に思い、授業後に何故かと理由を聞いた。すると、彼らは口々にこう言ったのだった。「日本人は中国のこと、嫌いだと思ってた」。この瞬間私は、中国人もまた日本人と同じように、最も近いはずの国が、遠くにあるということを知ったのだった。

また、中国人の中にも、「好きな国」に日本を選んだ者がいた。彼は日本のアニメが好きで、日本をこの授業の題材にすることに決めたのだという。カナダに来て、彼らと話しているうちに、もう一つ、気づいたことがある。それは、中国の人々の日本の文化、特にアニメやゲームなどの大衆文化に関する造詣の深さである。一昨年公開された「君の名は。」は中国でも人気を博し、若者であれば知らない者はいないと、ある中国人留学生は言っていた。日本でも、中国の歴史を題材にしたゲームや漫画は大人気で、人々を魅了し続けている。日本と中国は、お互いがお互いに良い意味で影響し合える、文化的に最も近い存在だということを、実感した出来事だった。

2018年の今年は、1978年に日中平和友好条約が締結されてから40年が経過した、記念すべき節目の年だ。あの時、この条約を締結した先人たちは、きっとそれぞれ思うところはあれど、これからの日中関係の改善に、希望を抱いていたに違いない。しかし日本と中国の間には、これだけ近い間柄でありながら、40年経った今なお、深い溝が横たわっているのが現状だ。この溝を少しでも埋める方法は、ないのだろうか。先人達の意志を受け継ぎ、これからの日中の平和をつくるのは他でもない、私達なのだ。日本から見た中国が、そして中国から見た日本が、物理的にも感情的にも、「最も近い国」になる日が来ることを願って。

人民中国インターネット版

 

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