「大丈夫、私、中国人だから」

2018-09-21 15:21:58

掛谷文音

私の大学入学直後、父は末期ガンの宣告を受けた。医学部受験に落ち、滑り止めの滑り止めである今の大学に入学した上に父の病気が発覚した当時は、言葉で表現することができないほどの絶望で、大学に通う気力がほとんどなかった。また、この頃は入学直後という特別な環境で頼れる友人がいなかったこともあるが、自分の性格上、他人に個人的な話をすることが憚られていたため相談相手など一人もいなかった。そんな人生のどん底にいた私を強い正義感によって救い出してくれたのは、他でもない、劉さんという在日中国人だった。

劉さんは同じ学科の学生で、高校一年生の時に日本へ越してきた中国人である。大学入学後3週間ほどで仲良くなり、今では唯一無二の親友だ。彼女は思いやりと正義感溢れる人間で、私が何か抱えていることにすぐに気づいた。ここで、日本人の場合、他人の問題に口を挟むのは無礼であるという文化があるため何も言わないことの方が多い。また、話す側もそれを理解し、他人に迷惑をかけたくないため重い話は避ける。しかし、劉さんは私が苦しんでいることに気づいた途端、まだ出会って間もないにも関わらず、「なんでも言って。大丈夫、私、中国人だから。」と何のためらいもなく手を差し伸べてくれた。彼女のこの言動は、相談相手がいなかった私には救いだった。それから様々なことを打ち明けたことで、現在私は大学に通えている。これは劉さん個人の優しい人柄が大きかったこともあるが、人との距離が近い中国人であるからこそ為し得たことであるとも言える。言わば私は中国文化に助けられたのである。

他にも幾度か中国人に助けてられたことがある。小学校二年生から中学校二年生まで私は米国合衆国のジョージア州に在住していた。渡米したばかりの頃は全く英語が喋れず不安を胸に学校に通っていた。同じクラスに一人日本人の女の子がいたが、彼女は私が英語を喋れないことをいいことに、周りの生徒たちに私の悪口を言っていた。そのことを教えてくれたのはカルメンという中国人だった。彼女はその上で私を家へ招待し、英語を教えてくれるなど、面倒を見てくれた。半年後には彼女のおかげで英語がある程度話せるようになり、日本人の女の子に英語で言い返せるようになった。ここでは、中国人が助けてくれただけではなく、同じ日本人から中国人が私を守ってくれた。

このような経験が重なり、今では私は中国人をとても信頼、尊敬している。しかし、一般的に見ると、米国でも日本でも中国人に対しての偏見がある。特に日本では中国との関係が数年前から悪化していることと、中国文化への知識不足、理解不足で中国人への差別的な考えが横行している。これは大変残念な事実であると同時に、日本人にとって不利益なことであると言える。多文化への理解や他国の人々との交流は新たなアイデアや価値観、世界観の拡大に欠かせないからである。地理的にも人種的にも近い中国は日本人にとって親しみやすいはずであり、一歩踏み出せば強固な信頼関係と交友関係を築くことができるはずだ。しかし、その一歩が踏み出せないでいるばかりに、この貴重な関係を築き上げることができないでいる。そして何よりも、劉さんやカルメンのような中国人が偏見によって悪印象を持たれるのは我慢ならないことである。

そこで、その一歩を踏み出せないでいる人々の背中を押すことで中国への理解を促し、今まで私を助けてくれた中国人達に恩返しができないかと思った。ただの一学生であるため大きな変革を起こせるわけではないが、周りの人から一人ずつ偏見をなくしていくことで、何か小さな変化を起こせるのではないかと考えた。しかし、私もまだ中国文化への知識不足で、できることも多くはない。故にこれから中国へ渡航したり、中国語を学んだりして理解を深めていくことで説得力のある人間になり、少しずつ偏見をなくしていきたい。

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