僕の願い

2019-07-01 09:43:02

佐藤 龍馨


純粋な日本人である僕は、親の仕事の都合で物心ついた時から上海で、中国人のおじいちゃんおばあちゃんに育てられました。

母はシングルマザーで、まだ赤ちゃんであった僕を連れて中国に留学し、その留学先であった上海交通大学の留学生寮の上の階に住んでいた教師のお母さんが、昼間に時間があり母の勉強中に僕を預かってくれたのが縁で、その後中国で就職し忙しく働き始めた母のかわりにずっと夫婦で僕を育ててくれたのです。

今思うと、子連れで留学する学生を寮に入れてくれたり、言葉もまだあまり通じない日本人の子供である僕を本当に大事に育ててくれたり、中国は本当に懐が広い国だと思います。中国のおじいちゃんおばあちゃんは、喘息があった僕が発作のたびに寝ないで看病してくれ、勉強をみてくれ、食事では一番おいしい部分を僕にくれて、中学入学のタイミングで母と日本に帰国した僕に会うためにわざわざ自分たちでビザを取り飛行機を取って日本に来てくれました。中国のおじいちゃんおばあちゃんは僕の大事な家族です。

でも僕は帰国してから、日本のテレビでは中国のことがあまり良いイメージで報道されていないことに気が付きました。日本で違反をした人、マナーが悪い部分がクローズアップされて、僕が中国で育ったことを知る人に、中国人なんて最悪だぞと言われたこともありました。家族を悪く言われたのと同じで思わず涙が出た出来事です。そして同時に僕が思い出したのは、中国にいた時に「島」の件で大きな抗議デモが起こったことや、中国のテレビドラマでもよく日本兵が悪役で出てくることでした。

同じ一つの事実や歴史でも、見る側の立ち位置が違えば、見える形も違ってくるのだなということを僕は生まれて初めて本当に実感しました。でも自分と立ち位置が違い、相手と見える形が違っても、こういう角度から見ればこういう見え方があるのだということを相手の立場にたってお互い理解することができれば、お互いを悪く言う悪いループを断ち切れるのではないかと思います。

日本に帰国して初めて日本の学校に通った当初は掃除のやり方一つについても中国との違いがあり、いくつもの場面でギャップを感じましたが、今改めて感じるのは、それはどちらが良いか悪いかではなく、それぞれに良い面と悪い面があるということです。

僕は両方の国で育ったので、なぜ中国人が、日本人がそういう行動をするのか、なぜそう考えるのか、それぞれを自然と理解することができます。結局はどちらの国の人間が悪いとか良いとかはなくて、お互いの社会事情や文化、そして生活習慣が違うだけなのです。

同じ日本人同士の友達でも、お互いの育った環境や考え方の違い、個人的な嗜好の違いで分かり合えなかったり、すれ違ってしまったりすることがあります。僕も帰国してから、最初は部活動の上下関係など日本独特の文化に面喰いクラスメイトと溝を感じたこともありました。でもお互いの習慣や背景を知り、それを尊重して理解しあおうという気持ちがあればその溝はすぐに乗り越えて、仲良くなれるということも知りました。一番怖いのは相手のことを知らないまま勝手にイメージだけで相手を決めつけることだと思います。その先には何も生まれません。

中国のおじいちゃんおばあちゃんと僕は、血はつながっていませんし、国も違いますが、何よりも強い絆でつながっています。僕にとっては日本も中国も大事な家族がいる故郷です。中国からの帰国子女である僕が溝を乗り越えてクラスメイトと仲良くなったように、中国と日本の間の溝が埋まってゆければと願いをこめてこの作文を書きました。

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