火鍋との出会い

2019-07-01 09:43:02

出石 佑樹


「やばっ! 辛いわー。でも、箸が止まらんわ。」今日も、楽しそうな声が研究室から漏れている。

普段は皆、真面目に植物などを研究しているが、時々打ち上げでやるイベントがある。それは火鍋パーティー。皆、ヒーヒー言いながらも、どんどん口に運んでいく。たまには、花椒のせいか、お腹が痛くなったりと、絶えず笑い声が絶えない、最高のひと時である。そんな私もこの時ばかりは研究室の別の顔として、研究で来ている中国人留学生の見習い料理人となり、火鍋のつくり方を教えてもらっている。研究のプロトコルファイルの中には、一つだけ、見慣れない文字で「火鍋」というプロトコルが存在する。こんな賑やかな研究室になったのも、中国からの留学生李君が来てからだ。彼は、グローバルレベルでの研究をしたくて、私の研究室に入ってきた。彼とは皆すぐに仲良くなり、楽しい学生生活が始まった。

しかし、そんな楽しい学生生活を過ごすうちに、一つの疑問点がふっと浮かんだ。それは、「なぜ、そんなにやる気が高いのか?」一般的な日本人であれば大学生になり遊び、皆がやるから仕方なく就活したり、卒業論文を執筆する。自分もそんな大多数のうちの一人であった。しかし彼は、論文を進んで読み、先生方とディスカッションし、自分の意思をはっきりと示していた。それも自分の自己実現のために。彼は、「いつか中国に帰って一大ビジネスを手掛けたり、世界初の研究をできる研究者になりたい」と言っていた。そういった彼の言葉には嘘偽りなどなく、率直な気持ちであった。また、「周りの友達もレベルの高い友達ばかりで自分も負けていられない」と口走っていた。その時、ふと思ったことがある。それは、中国とはいったいどういった国なのだろうかと。自分の目で確かめ、現地の学生に刺激を受けて自分自身が成長できるのではないかと思った。そして、現地流の火鍋の調理の仕方の練習も含めて、習いたくなった。

現在、多くの人たちが「中国」という国に偏見を抱いている。レストランでの接客などで、少しミスしただけで、「あれだから中国の人は…」と口にしたりしている。一方で、自分が彼らに向かって、「いや、日本人でもミスするでしょ!」と面を向かって言えず、いつも心の中で唱えてしまう自分に嫌味を覚えてしまう。そう、自分に足りないのは、ほんの少しの「ユウキ」なのだ。親から名前として授けてもらった「佑樹(ユウキ)」が必要なのだ。

ただ、今ならしっかりとこれだけは言える。「どんな人でもミスはするし、それは日本人でも中国人でも共通だ。ただ単に、一回の出来事で中国のことをわかったふりをして言わないでほしい」と。自分も、実際に中国を訪問したことはない。だから、中国の人々の真の国民性はわからない。ただ、日本国内でいろいろな中国の友達を作ってきた中で感じたことは、皆同じ人間で、優しさや幸せ、悲しい気持ちはどこの国の人でも共通なのだと。李君に限らず、私の中国人の友達は皆優しくて、意欲的だった。私はそういったものも含めて、中国とはどのような国なのかを実際に見て皆に伝えたいと思う。

このように、中国には、まだ見ぬ魅力が多く存在する。そういった魅力をしっかりとくみ取って、自分の経験に役立てたいと強く感じた。というのも、来年から私は社会人になる。これからは大変なことやしんどいことも多くある。そんな中で、李君のようなしっかりと目標を持った人物に会い、自分の生きる軸を確立したいと思った。自分が中国に行く意義はそこにあるのだと強く感じた。自分は日本のみならず世界中で活躍できるような人材になりたい。そういった人材になるためにも、一度中国を訪れて、現地の雰囲気や環境に影響を受けて、日本の研究力や教育を変革し続ける人材になりたいと思った。また、これが私に与えられた責務であると最近は強く感じている。

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