留学生と私

2019-07-01 09:43:01

霜村 悠夏


就活生を迎える企業が、「中国人の学生は向上心が強く仕事熱心な傾向にある。」とテレビのニュースで語っていた。就職活動のためのインターネットでも同じような記載があった。13億の人口をもつ中国の就職活動は競争が非常に激しく実力至上主義で、当然学生も日本の学生とは就職に対する心構えが違うとの事である。これから就職活動を控えている身であった私は少し苛立ちと悔しさを覚えた。

そして大学3年生の秋、私が所属している研究室に中国から留学生が来ることになり、彼女を学習面や生活面のサポートをするためのチューターを募集していた。大学の授業で中国語を学んでおり、語学の勉強になるかもしれないという気持ちで、私はチューターを引き受けた。私にとっても留学生にとっても、一対一で向き合う最初の外国人だった。初めて会った時、彼女の語学力が高いことに驚いた。彼女はこれまで一度も日本に来たことがなく、中国の大学で日本語を勉強したのみである。日本に来たことがないとは思えないほど流暢な日本語だ。しかし、様々な会話をする中で、何かが耳にスムーズ入ってこない感覚があり、ちょっとした部分で気になることがあった。しかしそれが何かは明確には分からなかった。

私は、実際の会話を収録しその映像を見て人間の発話や行動を分析するという、会話分析を学んでおり、彼女もこの分野を勉強するために私達の研究室に所属することになった。私も彼女も履修している授業の中で、発話のフィラーについて議論する時間があった。フィラーとは、「まあ」「えーと」「あのー」「なんか」など、ほとんど意味を持っていなく会話に頻繁に現れる言語表現である。日本人は会話中にフィラーを使うことによってスムーズで自然な会話が成り立っているところが多々ある。しかし、日本人はフィラーの使い方を習ったわけではなく、文書として書くこともない。彼女も、当然中国の学校で日本語会話でのフィラーなど習っていないため、会話中でのフィラーの出現はほとんどなかった。しかし、授業でフィラーを研究した何日か後に彼女と会話をすると、「なんか」や「まあ」を使いこなしており、より自然な日本語会話になっていた。学んだことをすぐに応用していることに私は感銘し、他に気になっていた発話も教えたくなった。日本人はよく「で」を接続詞として多用する。しかしそれを習ったことがない彼女は、「で」の代わりに「そして」や「だから」をよく使っていた。そのため「で」を使う方がより自然な会話になるということを伝えてみた。ますます自然な日本語会話になっていく彼女は、いつも私に沢山の質問をする。

「元旦の日はどんなことをするの?」、「お花見は花を見るだけではないの?」

積極的に日本の文化を知ろうとしている彼女の勉強熱心な姿に、私も触発されて色々な細かいことに興味を持つようになった。彼女が私に日本の文化を聞いたら、私も中国の文化を聞く。お互いの国の文化を比較しながら学ぶ事の素晴らしさに気づくと同時に、彼女に出会ったことで私も以前より勉強熱心になっていった。

あの時テレビで見た、「中国人は仕事熱心だ」というニュースは、彼女のように日本への興味や関心を示し、習得したことをすぐにアウトプットしようとする姿勢が認められているのだろうと思う。現在も彼女のチューターを続けている中で、彼女が私に熱心に質問しているように、私も中国の文化や言語について質問することが多くなった。彼女の興味や関心を持つ心はとても素晴らしいことであり、私も彼女のような心を持ちたいと感じている。今後、日本の企業に就職したいと語る彼女に、私は全力でサポートしたいと思う。

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