当たり前を崩す

2019-07-01 09:42:08

三井 桃子


今年の3月、海外派遣プログラムで初めて中国に行った。1週間で北京、深圳、広州を巡った。私の訪中の目的は「当たり前を崩す」だった。

私の中国のイメージは、マスメディアの情報や日本で見る中国人観光客の印象などであった。自分の五感から中国を知ることで、世の中や自分の中で「当たり前」になっている中国人のイメージを崩したいと思っていた。

 今回発見したことの中で特におもしろかったのが、国の制度自体が国の形や国民の意識を全て決めるわけではないことだ。

中国は現在世界2位の経済大国になっている。私は今まで、民主主義であることが国を発展させる条件だと思っていた。欧米の先進国の多くは、民主主義である国が多い。しかし、中国は一見自由がなさそうな共産主義でもこれほどまでに成長している。日本より高い教育を受けている人もいる中国のエリートたちはこれについてどう思っているのか日本にいたとき不思議に思っていた。

 実際に中国人の外交官にこのことを質問する機会があった。すると、「国の制度にこだわる必要はないと思っている。中国が社会主義で経済発展したならばその制度が合っている」と答えた。そもそも、共産党員は2016年時点で全国民の約6%にしかすぎず、国民が共産主義を無理やり強いられているわけではないようだ。加えて、私は中国のメディア事情についても外交官に聞いてみた。報道の自由度ランキングで中国は例年順位が低い。FacebookLINETwitterなどのSNSが統制されていることを考えると、言論の自由が制限されているように捉えられる。しかし外交官は「大手新聞紙でも言論の統制を受けていることはあまり聞かない。特に、近年力をつけてきたネットメディアはかなり政権批判をしている記事もある」と言う。加えて、外交官は「日本の一部のマスメディアの方がよっぽど国の統制を受けているのでは」と主張した。自分はただ、国の制度を漠然としたイメージで捉えその国が統制を受けていると考えていた。しかし、その制度をどのようなバックグラウンドや思想を持った国民がどのような受け止め方をするかで制度の意味合いは変わってくるのだ。

現地の中国人学生との交流でも似たようなことについて話した。その学生はVPN対策をしていたためFacebookGoogleYouTubeもよく見るという。「対策しないと見られないってなんか統制されてる気分になったりしないの?」と私は聞いてみた。すると「僕の周りはVPN対策していない子も多いよ。中国国内の動画サイトや検索サイトが充実してるからそれだけで物足りるって子も多い。別に国外のも見たかったら対策すればいいだけだから」とあっさりと答えてくれた。私には統制されているように思えても、現地で暮らす人はそこまで思っていないのだ。もっと言えば、先ほどの外交官の言葉のように、日本に住む自分たちが受け入れている政治の仕組みや日常に触れる情報も他国からは疑問視されることもあるのだ。

私は大学でジャーナリズムを学んでいる。ぜひ中国のジャーナリズムについて研究したいと思った。また、中国の新興メディアとマスメディアの報道の違いについても調べたい。そして、外交官がなぜ日本のマスメディアも統制を受けていると言ったのか、その真髄を知らなければいけないと痛感した。

現地に行くことで、私の中国に対する「当たり前」はたくさん崩された。生活習慣、文化、食、そのほとんどすべてが予想していたのと違うものだった。限られた情報で国や人を決めつけてはいけないと深く感じた。周りの友達に中国での出来事を話すと「中国は怖いイメージだったけど、本当はとてもおもしろい国なんだね」と理解してもらえることが多い。

長い付き合いの隣国でありながら日本人は中国のことをあまり知らない。もっと知りたいと思ってくれる人が増えてほしい。そのために、まず自分が今後も中国と関わり自分の「当たり前」を崩し、気づいたことを周りに発信していきたい。

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