小さな異文化体験

2019-07-01 09:42:08

 西森 伽恋


 私には海外経験はないけれど、1回生の時に留学に負けないくらいの経験をしました。2歳年上の王さんとのお話です。

私は大学進学に合わせ地元を離れ、京都の中心部である四条でアパレルのアルバイトを始めました。大学生活を送る中で、京都には国際交流するきっかけが多いと感じました。そのためアルバイト先では国籍問わずお客さんは目まぐるしく出入りし、接客や品出しに追われるためお客さん一人と関わる時間はわずかでした。当時メディアで一番取り上げられていた「爆買中国人」が売り上げの半分を支えていた時です。毎日の朝礼で店長からは、「今日もたくさんの爆買中国人に割く時間はないから、日本人メインで接客しろ」と必ず言われていました。確かに何も接客をしていないにも関わらず売り上げは伸びていました。ましてや、その爆買中国人のマナーの悪さなど愚行ばかりを報道される日々。明らかに中国人への印象は最悪であったため、その言葉を鵜呑みにしてアルバイトに励んでいました。

そんな日々が続くとき、「すみません!」とお客さんの大きな声で私は呼び止められました。流暢な日本語で話す彼女こそ、王さんでした。商品について声を掛けられたのに、気づけば1時間が過ぎていました。その中で彼女の勤勉さ、礼儀正しさ、思いやりに触れ、どんどんお話に引き込まれていきました。

その場で連絡先を交換し、後日ご飯にも何回か行きました。その度に彼女は喜んでくれます。私が店を提案したら「考えてくれてありがとう」とご馳走してくれ、必ずテーブルを汚して帰っていきました。私もテレビ番組で中国人は日本人と反対で、お皿を汚すことを避けるからテーブルを汚すといったものを見たことがありました。その映像は、テーブルの上に魚の骨などをを置いていて、確かに日本とは真逆の文化でした。しかし、王さんのそれは映像のものよりいつも控えめできれいでした。そのことについて尋ねると、「カレンはわかってくれるけど、知らない人からしたら嫌な行為でしょ?」と言われたのです。そのときはじめて、爆買中国人ばかり取りあげるメディア、接客するなと指示する店長、一番はその偏見を鵜呑みにした自分、全てが恥ずかしくなりました。自分の文化を否定するわけでなく、違う文化との折衷案を見出し共存する王さんの姿は非常にまぶしく、また尊敬できるところばかりでした。

お店を後にして、「日本の文化を知らない中国人もいるけど、私の友達は日本が大好きだから周りはこうするよ」と教えてくれた王さんは少し涙目でした。初めて自分の行為を気遣ってもらい嬉しかったと言っていました。誰もがみんな自分の国が大好きで、その文化で育ってきたのだから誇りも持っているはずです。知らないことは恥だと感じました。

『沈没船ジョーク』をご存じでしょうか。沈みそうな船から海に脱出するために国籍ごとに呼びかける言葉が違うブラックジョークです。そこには中国人には「おいしい魚が泳いでいますよ」、日本人には「みんなはもう飛び込みましたよ」と言うと飛び込むとされています。確かにそうかもしれません。いつも美味しそうに食べる食いしん坊な王さん、みんなが中国人はマナーが悪いと言うからそう思う私。ただの一例に過ぎないけれど、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」は日本の悪いところが丸出しです。

 「王さんとの出会いは、私の世界を広げるための神様がくれたプレゼントなんやで」

 「本当にいつも大げさだな」

そう返す王さんはすごく嬉しそうに微笑んでいました。

京都は、世界的にも人気の観光地なので異文化体験をするきっかけがたくさんあります。つまり、来日した外国人からすれば私たちは“日本の顔”なのです。他国民のマナーの悪さを報道するならば、日本人の誇りである“おもてなし”を培う情報を発信するべきだと感じました。王さんに出会えたからこのような考え方ができるようになりました。異文化は直接肌で感じてなんぼです。

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