神話読み解く交流シンポ 河南省で中日が「文化移植」討論

2020-01-22 14:30:13

陳蘊青=文・写真

中国社会科学院日本研究所と南陽師範学院が共催する「中日人文対話――神話と伝説に関する国際シンポジウム」がこのほど、河南省南陽市にある同学院で開かれた。両国から集まった60人余りの専門家と学者が、中日の神話や伝説、文化、両国の文化・学術交流などの分野を巡って活発な討論を繰り広げた。

 

討論は天地開闢の物語から

 ――昔々、天と地がまだ分かれていなかったころ、宇宙はまるで大きな卵のような混沌の塊だった。盤古という巨人がその中で1万8000年の間眠っていた。ある日、突然目覚めた彼が力いっぱいおのを一振りすると、混沌に裂け目ができた。そこから、軽くて澄んでいるものがゆっくりと昇っていき、天となった。一方、重くて濁っているものが沈んでいき、地となった。天と地が分かれた後、盤古はそれらがくっつかないように天地の間に立って、頭で天を押し上げ、足で地を踏みしめた。毎日、天は1丈高くなり、地は1丈厚くなり、盤古の体も1丈大きくなった。こうして1万8000年たち、天と地の形がやっと定まると、盤古は疲れて倒れてしまった。彼の左目は太陽に、右目は月に、四肢と胴体は三山五岳に、血液は川になった……。

 これは中国で誰もが知っている「天地開闢」の創世神話だ。今回のシンポジウムが河南省南陽市で行われた大きな理由の一つは、同市管内の桐柏県が「盤古の里」と呼ばれているからである。ここには、さまざまな種類の盤古神話が伝わっており、民間の風習や文化遺跡にも盤古の面影が色濃く残されている。毎年、重陽の節句(旧暦9月9日)になると、現地の人々は盛大な祭典を催して、この創世神を記念する。

 シンポジウムで両国の学者は、まずこの神話から討論を開始した。中国社会科学院民族文学研究所の王憲昭研究員は、中国の各民族における盤古神話の伝承と影響について紹介し、次のように述べた。「漢民族だけでなく、中国の多くの民族に盤古の創世物語が伝わっている。盤古はすでに中華の各民族が考え出した文化的祖先、あるいは文化的英雄となっている」

 皇學館大学の河野訓学長は、「記紀神話(『古事記』と『日本書紀』)で、伊邪那岐が左目を洗ったときに天照大神(太陽)が、右目を洗ったときに月読(月)が、鼻を洗ったときに須佐之男命(雷)がそれぞれ生まれたという逸話は、盤古に関する神話と共通性があり、日本神話への影響と見られる」と語った。

 

両国の学者はシンポジウム期間中、重陽の節句に当たる107日に桐柏県桐柏山で行われた盤古を祭るセレモニーに参加した

 

神話から見た交流の起源

 続いて河野学長は「天孫降臨」を例にとり、日本の創世神話における神の系譜および神社間の関係について紹介した。中国神話の影響に言及した河野学長は、次のように語った。「『日本書紀』や『古事記』に収められている日本の神話について、その材料の多くが中国に由来するものだ。これは日本には独自の神話がなかった、ということを暗に主張している。独自の体系による文字を持たなかった当時の日本が、宗教状況や神話を叙述しようとする際、漢字や中国文化を用いたことは想像に難くない。同様の歴史は中国にもあり、仏教が中国に伝来して間もないころは、仏教の悟りが道家で重要視する『道』と訳されるなど、文化移植の最初期に見られる現象である」

 立命館大学の川嶋將生名誉教授は、日本の伝統祭礼「山・鉾・屋台行事」と中国の説話との関わりを考察し、次のように述べた。「『山・鉾・屋台行事』における「山車」や「山鉾」の多くは、中国の説話と関係がある。京都で毎年7月に行われる祇園祭を例にとれば、山鉾33基のうち8基が中国の故事や説話によるもので、そのうち2基(孟宗山・郭巨山)は中国の二十四孝、残りは孟嘗君や伯牙、白楽天などの伝説や故事にちなむものである。このことから、日本の祭礼に対する中国の説話の影響を知ることができる」

 法政大学の王敏教授は、古代中国・夏王朝の禹王が治水を行った神話「大禹の治水」が中国から日本へ伝来した状況と影響、さらにそれに関連して、周恩来総理の日本留学中のある出来事を紹介した。

 1917年から19年まで日本に留学していた周総理は、帰国前、京都の嵐山を2度訪れた。王教授は幾度も現地へ赴き、周総理の嵐山散策のコースを確認した。周総理は嵐山で、江戸時代初期に京都の治水事業に貢献した角倉了以の銅像や、千光寺にある禹王に関する石碑などを見学した。異国で禹王に関する文化遺跡を見て、水利専門家を祖父に持つ周総理は深い感銘を受けたことだろう。このような中日文化交流の起源は、後に周総理が中日友好に尽力する揺るぎない基盤ともなったと、王教授は考える。

 

中日の神話の専門家らが集まったシンポジウムの開幕式(写真・李偉/南陽師範学院)

 

多様な方法で交流を促進

 

 今回のシンポジウムについて、アジア歴史哲学研究所の牧野長生理事長は次のように評価した。「両国の学者は、神話や伝説から切り込んで、両国の文化の特徴や交流・伝承、文明の特徴を深く考察し、討論した。同時に、両国の長い文化交流史を振り返り、歴史問題を正しく知ることに積極的な推進作用をもたらした。われわれは今後、このような日中の人文対話を多く行い、両国の文化的差異を相互理解や相互尊重、相互信頼に変え、本当の日中友好を実現しなければならない」

 

 元中国社会科学院院長の王偉光・中国社会科学院大学校長も、両国関係における人文交流の重要性を強調し、次のように話した。「中日の人文交流を積極的に展開することは、双方の友情を育むのに有益で、理性的・客観的に相手を見るよう大衆を導き、両国関係のさらなる改善のために適した社会環境をつくるのに有益だ。新時代に入った中日関係には、しっかりとした社会と民意の基礎が不可欠である。昨年6月末に大阪で開かれた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で習近平国家主席と安倍晋三首相は、年内に中日ハイレベル人文交流対話を始動することで合意し(中日ハイレベル人文交流対話第1回会議は昨年1125日に東京で開かれた)、両国の人文交流の新たな発展に方向を示した。われわれは今回のシンポジウムのような活動をさらに打ち出し、両国の一般大衆がより理解しやすい、受け入れやすい方法で、両国の人文交流が深く成熟した方向に進むように大いに後押しし、両国関係の健全で安定した発展を促進していきたい」
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