一幅の絵画が中日民間交流の古今を結ぶ

2020-06-22 17:31:07

 

写真提供=王敏

 

中国国家博物館で行われた大型展示「高山景行―孔子文化展」

中国国家博物館が昨年1227日から開催している大型展示「高山景行―孔子文化展」の終了が近い。展示品の中でも、朝鮮半島における三国時代の漢人で、百済国の儒学博士だった王仁と日本の皇太子である菟道稚郎子(うじのわきいらつこ)が連れ立って歩く油絵の『王仁』が、特に人々の注目と興味を集めていた。この絵と孔子はどのような関係があるのだろうか。何がきっかけで「孔子文化展」に出展されたのだろうか。法政大学の王敏名誉教授が、東アジアの文化交流と相互学習の知られざる歴史から、その謎をひもとく。

 

油絵『王仁』

『王仁』の作者は、80後(1980年代生まれ)の若い油画家万立と唐灼の2人だ。朝鮮半島における三国時代の漢人で百済国の儒学博士の王仁と日本の皇太子である菟道稚郎子が、『論語』について議論している情景が描かれている。その場所は皇太子がかつて学んだ場所の宇治川だ。1200年前のこの地では宇治上神社が修復され、およそ900年前には菟道稚郎子が祭られ、今は世界文化遺産となっている。

285年、王仁博士は儒学の専門家として菟道稚郎子の師になるべく日本に招かれ、到着後に『論語』10巻と『千字文』1巻を献上した。日本で最も古い史書の『古事記』(712年)と『日本書紀』(720年)によると、王仁の日本渡来は孔子の思想を日本にもたらした最初のきっかけとされている。それ以前の日本には文字、典籍がなく、学校教育も始まっていなかった。以降、日本は上から下まで読み書きを習い、宮廷は学問所を開くことで、漢字文化圏へと転身していった。

芸術的角度から東アジア圏の儒教文明の交流、その伝承と相互学習を解説するために、国際儒学連合会の滕文生会長は『王仁』を油絵で表現しようと考えた。万立と唐灼は創作に全力を傾け、2019118日に作品を完成させる。国際儒学連合会の顧問をつとめる王殿卿氏は、2人の作家の作成中に筆者の研究成果を紹介し、北京師範大学の董乃強教授主編の『孔学知識辞典』を送った。この書中で儒学の普及に関する章には、もっぱら王仁が紹介されているからだ。

 

福田康夫元首相は2007年に中国を訪問、曲阜で「温故創新」としたためた

国際儒学連合会の学術交流で、日本の福田康夫元首相は王仁と菟道稚郎子についての話題を提起した。福田元首相は20071228日に訪中した際、スケジュールの合間を縫って曲阜を訪れており、王仁伝の『論語』と『千字文』が日本に伝わり、かつ「温故創新」という題字が、2人のアーティストに多大な啓発を与えたという点に触れた。それがきっかけとなり、完成した『王仁』は、国際儒学連合会からの国家的な贈り物として、福田元首相に送られている。また、王殿卿氏はこの作品に「中日同文 温故創新」「仁愛和平 德行天下」と命名することを提起した。

20191116日午後、国際儒学連合会の滕会長は、孔子生誕2570周年記念国際学術研究討論会及び国際儒学連合会第六回大会に出席するために北京を訪れた福田元首相と会見し、滕会長主宰の贈呈式が行われた。

 

北京で行われた孔子生誕記念2570周年国際学術研究討論会には福田康夫元首相も出席した 

福田元首相に作品紹介する国際儒学連合会の滕文生会長と、油絵『王仁』の作者、万立(左端)と唐灼(左から2番め) 

 

当日午後、福田元首相は「この絵は中日文化交流の歴史を見せるべく北京の駐中日本大使館にかけてもらい、大使館員の参考資料としてもらいたい」とし、飛行場に見送りに来た日本の大使館員に寄贈した。これを受けた横井裕駐中日本大使は、今年2月に作者2人に向けて感謝の手紙をしたためている。

 

両画家の新作が福田元首相に贈られたことを知った国家博物館は、間もなく開催予定の展示でこの作品を他の油画作品5点と共にリストに加えることを提起した。これにより、展示室には新たに日本の風景を描いた作品が加えられることとなった。展示は20191227日に開始し、20206月後半に終了したが、『美術報』や中央電視台などのメディアが取材に訪れている。文明は交流によって多彩になり、また相互学習を経ることで豊かになるものなのだ。

一幅の絵から、東アジアの儒教文明交流の物語から絵画の創作の契機、さらにはその後の絵画贈呈までの流れは、中日両国の「中日同文 温故創新」「仁愛和平 德行天下」の理念そのものだ。

中日友好の根幹は民間にあり、両国が継続して民間交流を絆とし、相互理解を高め、国民感情を促すための金の橋をかけることで、両国が発展する。そんなより良い未来のために、新たな原動力と活力を注ぎたいものだ。

 

 

王敏

 

日本アジア共同体文化協力機構顧問、国立新美術館評議委員 

治水神禹王研究会顧問、法政大学名誉教授 

拓殖大学昭和女子大学客員教授

  

人民中国インターネット版 2020622

 

 

 

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