文化の足音 コロナ下も止まず

2020-08-05 11:11:25

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 6月中旬に日本政府が県境を越えた移動制限を解除したことで、広島県にある中川美術館の中川健造館長が温めていた構想がようやく実現した。新型コロナウイルス感染症の流行が完全に収束していないため、規模を縮小して中川館長宅で行われた展示には、安倍晋三首相の筆頭秘書である配川博之氏、小笠原臣也元広島県副知事、企業家の古澤成憲氏らが出席した。

 中川美術館は中国の貴重な美術品を多数収蔵していることで知られるが、今回中川館長が展示を決めた「お宝」とは――分厚い木箱の中から取り出されたのは、二つの袋に入った白黒の碁石だった。「これは『永子』と呼ばれる雲南産の碁石で、制作方法は中国の無形文化財に指定されています」と紹介する中川館長。違いを見比べるための日本製の碁石も用意され、参加者は説明に感嘆の声を上げながら、興味深く見入った。永子の表面はなめらかできめが細かく、色も自然で、白は卵白、黒はカラスの羽のような風合いを持つ。さらに不思議なのは、黒の石に強い光を当てると、縁が深緑色に光を放つことだ。「今日は本当に見識が広まりました」と小笠原元副知事は繰り返し称賛した。

 永子の碁石は今年の本誌3月号の「美しい中国」で雲南省保山の名産として紹介されたが、長年の愛読者でもある中川館長はそれを読み、ぜひ本場で現物に触れてみたいと強く思ったという。しかし高齢のため渡航はいささか困難と判断、当社経由で入手し、美術館の収蔵品として日本人に紹介しようと決まった。

 中日間の囲碁交流の歴史は長い。阿倍仲麻呂と共に遣唐使として中国に渡った吉備真備が、唐の玄宗皇帝との会見に臨み、長安(現在の西安)で囲碁を学んだという。吉備真備は囲碁を日本に持ち帰り、日本での流行が始まった。当時の碁盤と碁石は、今も正倉院に収蔵されている。

 永子碁石の継承者で今回の碁石を制作した李国偉氏は、記者を介して中川館長とあいさつを交わした。李氏の「囲碁は人類文明とその知恵を体現するもので、永子が中国と日本をつなぐ懸け橋になってくれればと思います」との言葉に中川館長は、「中国の貴重な文化を伝え続け、中国文化の中からより多くの日本人に、現代人の失ったものや今の時代への啓示となる要素を見つけてもらいたい」と願った。

 中川館長は本誌を通じて李国偉氏と出会い、中国文化と知恵の詰まった工芸品を日本で収蔵し、人々にお披露目することができた。新型コロナウイルスの感染拡大は中日間の人的往来を阻害したが、情報の伝播や文化交流はコロナ前と変わらず続き、両国民を今もしっかりとつなぎ留め続けている。

 

娘と永子の碁石で対局する中川健造館長(写真提供・中川健造)

 

「永子の碁石」に見入る招待客(写真・于文/人民中国) 
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