日本思う詩をマスクに添えて

2020-08-17 15:25:27

于文=文

 

 突然発生した新型コロナウイルス感染症の流行は、2020年の様相を一変させた。発生から8カ月が過ぎた今も世界にまん延中だが、東アジアの各国はいち早く感染拡大を抑え込んだ。そしてここに至るまでの国や民間で交わされた友情と助け合いは、困難な時期だからこそ忘れ難い温かい思い出となり、人々の心に残った。

 2月に、日本から武漢に届いた支援物資に書かれた「山川異域 風月同天」(住むところは違えど風月の営みは同じ空の下でつながっている)が、隣国への深い心遣いとして中国人の心を揺さぶった。この詩を支援物資に添える提案をしたのは、一般社団法人日本青少年育成協会の林隆樹常任理事だ。林理事は大学在学中に心に残ったこの言葉を第4回HSK中国留学・就職フェアのスローガンに採用していたが、武漢での新型コロナウイルス感染拡大を受け、1000年以上前に鑑真の日本渡来を決意させた詩句に思いを込めて、支援物資と共に中国へと送ったという。美しい詩句は同じ漢字文化を持つ者を共鳴させ、ウイルスと闘う人々にとっては心温まるメッセージとなった。そして日本での感染状況が厳しさを増してからは、中国政府や各界の人々が日本に向けて大量のマスクなどの医療物資を寄贈した。

 人民中国雑誌社も、マスク不足に悩む人々の手元に物資を確実に届けるべく橋渡し役となり、中国国内で企業や個人からのマスク寄贈を募った。そして寄贈物資には日本の人々にも親しみ深い詩句や絵を添え、漢詩で真心を伝えてくれた日本の人々の気持ちに応えた。

 

心揺さぶる詩句と絵で彩られたマスクの小箱は最もマスクを必要とする人々に届けられ、受け取った日本の人々からの感謝の言葉が次々と寄せられた

 

顔が見える寄贈

 早朝、人民中国東京支局(以下、東京支局)は年配と思われる男性の電話を受けた。「村山です。マスクをありがとうございます。今の情勢は楽観視できませんので、皆さんもどうぞ気をつけてください」。声の主は村山富市元首相。総理大臣を務めた人が直々に電話をくれるとは、思いもよらなかった。

 日本が緊急事態宣言を発令した4月7日、浙江省の企業家・楊熹さんから託されたマスクを、東京支局を経由して神奈川県の老人ホームの代表に送ったのが、マスク寄贈の始まりだった。その後、日本での感染状況は厳しさを増した。北京本社の王衆一総編集長は非常に気に掛け、東京支局を通じて日ごろお世話になっている友人や団体に連絡を取り、マスク需要の把握に努めた。逼迫した状況を知った本社は急ぎ各方面に呼び掛け、企業や個人から寄付を募ったところ、楊熹さんと日本浙江総商会、山東斉河藍絲帯心連心協会から1万4000枚のマスクを集めることができた。

 調達の次は分配だ。切実にマスクを必要としているところに配るため、東京支局は寄贈先を徹底調査、送付リストを作成して優先順位を確定した。数十年来の読者や中日関連事業の関係者は年配者が多いため優先的に送り、団体は当社のパートナー関係にある団体や老人、児童福祉関係の施設を候補とした。

 各団体から寄贈が相次いでいるが、児童用マスクは比較的少ない。そこで集団感染リスクが高い老人ホームへの寄贈以外にも、蘇州康爾泰医療設備有限公司(康爾泰社)から学校や幼稚園向けの児童用マスクが1万枚届いた。これは本誌の愛読者で以前江戸川区教育委員会の職員だった、湖北省出身の陳麗麗さんの協力で江戸川区役所に贈られることが決まり、簡単な贈呈式を経て教育委員会関係部所に届けられた。

 マスクを受け取った江戸川区教育委員会事務局の飯田常雄教育推進課長は、「日本では今、児童用マスクが不足している上に、幼稚園や学校は集団感染リスクが高い場所です。こんな時のマスク贈呈はまさに雪中送炭です」と感激を口にした。贈呈式の様子は、微信(ウイーチャット)のライブチャットで康爾泰社の蒋紅元総経理と共有。蒋総経理は日本の人々に向け、「もともとは学校に戻った中国の子どもたちのために児童用マスクを作りましたが、日本の子どもたちのためにも役立てることができ、とてもうれしく思っています」と喜びを語った。

 中国の寄贈側と日本の受け取る側がライブチャットで顔合わせというアイデアは、人民中国独自のものだ。横浜市立二つ橋高等特別支援学校での贈呈式では、和内正也校長と生徒代表、神奈川県教育委員会の佐藤祐子インクルーシブ教育担当部長、森秀毅横浜市瀬谷区長に加え、寄贈の橋渡し役となった花上喜代志横浜市議会議員や本誌の長年の愛読者の田中誉士夫氏が、ライブチャットで、寄贈した斉河藍絲帯心連心協会の代表で斉河県経済協力センターの邱亮主任と顔を合わせることができた。和内校長が「学校の再開で、最も心配かつ大切な課題は、いかに校内集団感染を防ぐかになりました。そんな今、中国からの贈り物はまさに恵みの雨です」と語りかけると、画面の向こうの邱主任は「ウイルス感染拡大の一日でも早い収束を願っています。両国が今まで通りに行き来できるようになった時には、ぜひ生徒さんと一緒に斉河に遊びに来ていただき、互いの友情を高め合いたいと思います」と応えた。

 マスクは以前政治に携わっていた人々や現役の政治家たちにも送られ、細川護熙元首相、日本国際貿易促進協会の河野洋平会長、国会議員の海江田万里氏と伊佐進一氏からは礼状を受け取り、日本国際貿易促進協会からは、「中国においては習近平総書記のリーダーシップのもと、感染防止に大きな成果を上げられておりますことに心より敬意を表します。今後の終息が見通せず、まだ不安が残る中で温かい手を差し伸べていただき、心より感謝申し上げます。世界における感染状況はまだ拡大傾向にあるものの、日中両国が共に手を携えることで、早期に感染が解決されることを願っております」というメッセージが届いた。

 日本での連絡窓口となった東京支局には、北京本社や寄贈者に向けた感謝の言葉が相次いで届けられた。相次ぐ感謝の言葉で、支局員の心にも温かいものが満ちた。

 

贈呈式では微信のライブチャットで会場と寄贈元の中国とをつなぎ、感動を時差なく分かち合った(写真・南部健人/人民中国)

 

詩や絵画で伝えるメッセージ

 東京支局が送ったマスクには、共にウイルスと闘い、手を携えて共に難局を乗り越えようと呼び掛ける和歌、俳句、俳画が添えられた。そのことについて細川元首相は礼状で、「マスクに激励の言葉が添えられていたことに、細やかな心配りが感じられた」と触れ、神奈川県『人民中国』読者会の岩和志副会長も、マスクが入った紙箱に貼られた短歌と俳句に感動、思わず記念写真を撮ったという。岩副会長は元中国文化部副部長の劉徳有氏の詩を読み、深くうなずいてひと言、「詩句を添えただけで、『物』にも感情が生まれますね」と述べた。

 ウイルス感染拡大から間もない頃、人民中国が微信の公式アカウントで、「俳山句海鼓斗志 你接我続志成城」(たくさんの詩で闘志を奮い立たせ、皆の心を合わせ困難に打ち勝つ)というテーマでウイルスとの闘いを鼓舞する詩(和歌・俳句)を各界から募ったところ、日本の俳友を含む数百人から作品が集まった。日本へのマスク寄贈もこれが原案となった。投稿企画の発案者である王衆一総編集長が、前述の「山川異域 風月同天」のメッセージに応える形で中国原作の和歌、俳句、漢俳を添え、日本を支えたいというわれわれの気持ちに替えようと提案。「恵みの雨」のマスクに加え、文化の香り高い「雪中の炭」として人々の心を温めた。

 創作に当たり、王総編集長は劉徳有氏に一句を求めた。劉氏は病を押して既存の1首に加えて新たに2首を完成、王総編集長が中国語訳を担当した。

 また、日本浙江総商会からの寄贈物資には、浙江大学経済学院の夏瑛氏と浙江農林大学芸術設計学院の王玉紅氏が俳句と俳画を描き下ろした。王総編集長がその俳句を漢俳に翻訳し、夏瑛氏の俳句、王玉紅氏の俳画と三位一体のコラボレーションが完成。劉氏の和歌と共にマスクの包みに貼られ、日本の人々の元に送り届けられた。

 前出の田中誉士夫氏は、送られたマスクは人に譲ってしまったというが、俳句や俳画がプリントされた紙と読者への手紙の文面全てを保存したという。「文化をベースに両国民の心を通じ合わせることができるのは、『人民中国』をおいて他にありません」

 中国での感染拡大期間中では日本が救いの手を差し伸べ、日本にウイルスの魔の手が及んだ時には中国が守り支えた。今回のマスク寄贈プロジェクトでは日本から送られた「山川異域 風月同天」の言葉に和歌や俳句で応え、「顔が見える」方法を取ることで、日本の人々の安心と信頼を得た。両国民の心を結ぶ創造的なプロジェクトとして、両国の民意の基礎をより確かなものにするための有意義な試みだったと思われる。

 王総編集長は全国政協委員として今年の中国人民政治協商会議に参加した際に、中日両国の民間交流をより強めることで、両国間の信頼関係をより豊かにかつ改善させようと提案したが、今回のマスク寄贈はその発想の一端となった。そして今回の成功は、「助け合い見守り合う」とは段ボールをマスクでいっぱいにするだけではなく、詩句や絵画を添えることで人の心を動かす工夫も必要だと私たちに教えてくれた。ウイルスの感染が常態化しつつある今、中日両国の人々は互いを見守ることで信頼関係を保ち、この信頼を壊す全ての行為に反対し、共に支え合うことで新たな時代の章を書き続けることだろう。

 

劉徳有・元文化部副部長から送られた短歌王衆一訳)

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