人として大切なこと

2020-09-10 14:07:29

林哲平


今でも鮮明に覚えている言葉がある。私が2018年の夏一人で 都江堰に行った時のことだ。当時私は高速鉄道から降りた駅でどのようにして目的地へ行けばいいかわからず、立ち往生していた。その時一人のタクシーのおじちゃんが私にタクシーに乗って目的地までいかないかと尋ねてきた。彼が観光地によくいるぼったくりのタクシー運転手に見えた私は彼を断り、目的地に向かうバスを探した。しかしなかなかバス停を見つけることができず、さらにタクシーのおじちゃんが執拗に私に声をかけてきたため、私はしょうがなくタクシーに乗って目的地に向かうこととした。

タクシーの中でおじちゃんは私にいくつか質問をした。何回かやり取りをするうちにおじちゃんは私が外国人であるとわかると彼はさらにマシンガンのように話しかけてきた。彼の勢いに圧倒されながらタクシーは目的地に着いたわけであったが、私がお金を払おうとしたとき、彼はお金はいらないといったのだ。私はその言葉に驚きそれでもお金を払おうとすると、彼は「做人要有人情味的」と言い放った。その言葉を聞いた途端、彼をぼったくりのタクシーのおじちゃんと思っていた自分を恥じた。少し聞き取れない部分もあったが、彼の眼には僕が困っている外国人のように映って、それを助けたかったのだろう。結局お金を払わずに目的地まで送ってもらった。私はタクシーの料金を払わなくていいといわれたことより、そのような言葉を普通のタクシーの運転手の口から放たれたことに驚いた。この人情味という言葉は今でも私の座右の銘として心に残っている。

よく日本人は海外の人に礼儀正しい、優しいといわれるのを聞く。私自身も日本で生活していてそれを感じる。しかし日本人のやさしさは時に偽善じみた、人間味のないどこか距離感をとられているようなやさしさであると感じる。一方で私が都江堰に行ったとき感じたやさしさというのは自分が日本で感じてきたやさしさとは違ったやさしさだと思った。それは確かに彼の言うように人情味にあふれた、人間らしい温かさであった。またそれは国籍関係なく皆があるべき姿なのではないか。

現在世界がコロナウイルスで苦しんでる中、人々が持つべきは人情味ではないだろうか。物資が足りていないところには支援物資を送る、スマホを使って相手の安否を確認するだけでもいい。人のことを思いやるその人情味が大事なのである。そう思わせてくれたのは都江堰で出会った一人のタクシー運転手であり、私は彼に感謝している。そして私自身も含めて、彼のような人情味のあふれた人が増えていく世界を私は願っている。

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