陶磁器の歴史 中日でドキュメンタリーに

2021-03-17 14:25:28

王朝陽=文

陶磁器の誕生と発展の歴史を描いたドキュメンタリー映画の『陶王子2万年の旅』(以下『陶王子』)が、1月2日から日本全国で封切られた。制作に6年をかけたというこのドキュメンタリーは、中国における陶磁器の発展の歴史が多く描かれ、さらに中国人が共同制作、撮影、監督などのスタッフに名を連ねている。企画制作に中国との深い関係がある作品だ。同作の制作に当たり、中日合同チームは人類と陶磁器の関係を尋ねる旅の中で、ドキュメンタリー制作の新たな方向性を模索したという。

 

旧友と再び共作を

同作監督の柴田昌平さんは2001年から北京電影学院に1年間留学、その際に多くの中国映画界関係者と知り合い、帰国から20年たった今も連絡を取り続けているという。だから今作の『陶王子』制作に当たっても、迷うことなく留学時代の「老朋友」に声を掛け、ドキュメンタリーフィルム制作の経験豊かな毛継東さんに撮影監督としての参加を呼び掛けた。「毛さんは非常に優秀なカメラマンで、彼とは『新シルクロード』の制作などで何度も一緒に仕事をしています」と、「老朋友」を高く評価。「彼に撮影監督をお願いした大きな理由は、自然とキャラクターの関係性を描くテクニックにたけているセンスです。彼のセンスは『陶王子』の趣旨とぴったりでした」と起用の理由を語った。

『陶王子』は、中国陶磁工芸美術大師の任星航氏が「自然は美しい」と言いながら山中で釉薬の原料になる鉱石を探すシーンで始まる。この「自然は美しい」という言葉は、同作の基本テーマだ。「任さんの自然を師とし、自然を敬う姿勢にはとても感動させられました」。任氏の作品は撮影過程の中でも最も印象的なカットだったと言う柴田監督。「釉薬に使う鉱石の成分を科学的に分析して人工的な調合で色を作る欧州の陶芸家とは違い、任さんの色は自然と交わってできたものです。だからその作品にも、自然物でしか出し得ない艶やかな色彩が出ているのです」と独自の美を語る。

 

河南省禹州市の古陶磁・鈞窯を今に伝える任星航さん

 


任星航さんの作品

「自然を尊ぶ」というテーマをより際立たせるため、撮影監督の毛さんはシーン選びにさまざまなアイデアを散りばめたそうだ。例えば青森での撮影で、焼き物に使う粘土を海辺の崖を登って探す陶芸家の熊谷幸治さんの姿を収めたカットを、毛さんは人間の自然への探求を表すものとして、ロケハンの時点で採用を決めたという。

 

新たな友との出会い

シーンやカットのこだわりもさることながら、『陶王子』最大の特徴は全編で登場する陶磁器の人形アニメーションだ。そしてこれこそが、柴田監督が中日チームで同作を手掛ける上での最大のイノベーションと言えるだろう。「ドキュメンタリーは教科書のように単に知識を語るだけのものでなく、より豊かなストーリー性を持たせることで、多くの人々を引き付けるものであってほしいと思うのです。ですから本作でも、器の精霊・ 陶王子を登場させ、2万年に及ぶ発展の歴史を語ってもらいました」

『陶王子』の撮影前、柴田監督はイメージを再現できる陶芸家を探し続け、1カ月半後に人形アニメーション作家の耿雪さんに出会ったという。「インターネットで耿さんの卒業制作のショートムービーを見たのがきっかけです。無機物である焼き物が『生きて』いたのを見て、本作には絶対に彼女に加わってもらうべきだと決意しました。留学時代の友達や同級生との微信(ウイーチャット)のグループチャットで、耿さんの知り合いはいないか聞いて回り、ついに知人のまた知人の紹介で連絡を取ることができました。耿さんに制作意図を話したところ、焼き物で作った人形が陶磁器の歴史を語るという試みを面白がってくれ、協力を快諾してくれました」。そして翌日には、耿さんからの絵コンテが柴田監督のもとに数枚送られてきた。そしてそれがアニメーション部分制作の基礎となった。

    

広がる共作の空間

『陶王子』の制作は、中国の旧友や新たに知り合った人々の手助けで着々と進められた。同作の完成は、中日スタッフがドキュメンタリーの新たな方向性の探索という共通の理念を持っていたことと切り離して考えることができないと柴田監督は語る。

柴田監督が01年に留学した当時と比べると、中国のドキュメンタリー制作事情は大きく変わった。「ドキュメンタリー(紀録片)は当時『専題片』『資料片』と呼ばれていて、概念があまり明確に定義されていませんでした。01年に北京電影学院と北京広播学院(現・中国伝媒大学)がドキュメンタリー制作人の育成を提案したことで、多数の地方局の監督やカメラマンがドキュメンタリーの作成法と撮影法を学びに北京にやってきました。先生方はこの年のことを興奮と期待をもって『中国ドキュメンタリー元年』と呼んだほどでした」と記憶をたどり、「またたく間に20年が過ぎ、中国のドキュメンタリー作品は質量共に大きく進歩し、ドキュメンタリー制作関連の業界全体が非常に大きく発展したと思います」と現状を評価した。

「今後、ドキュメンタリーをもっと見てもらうためにはどうすればいいか、特に子どもや若い人にドキュメンタリーに興味を持ってもらうことは、日本と中国のこの業界にとって共通の課題だと思います。私は、将来的にはストーリーテリングの方法をさらに工夫していくことが大切だと思っています。うれしいことに、中国の友人と私はこの点で意見が一致しています。これが、友人たちが私との共作に加わってくれる最大の理由でしょう」

『陶王子』の制作過程は、柴田監督と中国の友人たちが志を同じくして挑んだ初めての挑戦だった。作品を無事完成させた柴田監督は、今年の計画として二つの目標を立てている。「一つは雲岡石窟をテーマにしたもの、もう一つはパンダがテーマです。『老朋友』で『陶王子』の中国撮影パートの共同監督を務めた侯新天さんと、長年温めてきた作品です」と構想を語る。中日共同制作によるドキュメンタリーの展望に、柴田監督は大いに期待を寄せているようだ。「ここ数年の間にも国際的な共作が増えていて、毎年2、3作品が発表されています。制作環境や協力の雰囲気などもどんどん良くなってきています。昨年や今年は新型コロナウイルスの影響でその勢いが削がれましたが、コロナ収束後の日中共同作品は今まで以上に多くなるでしょう」

 




器の精霊である陶王子の肌が粘土から白磁に変わり、釉薬の色が染付から色絵へと変わることで、2万年にわたる陶磁器の発展と変遷を表している 

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