感動でつながり前進する
王衆一=文
オリンピック史上最も特殊なオリンピック――不運続きの第32回夏季オリンピックの聖火がついに東京のメインスタジアムに灯された。東京オリンピックのテーマは「United by Emotion(感動でつなぐ力)」と「Moving Forward(前を向いて生きる力)」。開会式では、会場のデザインや段取りがぴったりこのテーマに沿っており、互いに関連するいくつかの要素が見えつ隠れつ平行してそれを貫き、東アジアの伝統的知恵や日本の文化的特質、隠喩的な国家の象徴、国際化した庶民の気質、斬新なオリンピックの理念を提示していた。そのうち多くの見どころと注目点は、北京冬季オリンピックでも参考にできるものだ。
開会式では死者に黙祷するパートが設けられ、森山未來がソロダンスで鎮魂を意味する舞踏パフォーマンスを行った。一部のネットユーザーは「陰気」すぎると批判したが、戦後発展してきた舞踏は命を哀れむというテーマを表現することを得意としており、今回のオリンピックで特別に追加された黙祷パートに配置したのは適切だっただろう。それは人間の神経伝達を象徴した赤い糸のダンスと呼応し、新型コロナ下の人類の、引き離されたいらだちとつながりを回復したい渇望を表し、「United by Emotion」というテーマをも表した。そして、最後の聖火点灯で、医療従事者を聖火ランナーにしたこともまた、感染症を恐れず希望を迎えることを表し、「Moving Forward」というテーマに合致していた。
開会式の映像には、会場地下のヒマワリの種が登場し、会場では速いスピードで成長する小さな苗が映し出された。これは2013年に開催権を得てから育ってきた今回のオリンピックを意味している。小さな苗は最後、聖火点灯のパートで子どもたちが手に持つヒマワリの花束になった。花束に囲まれて、オリンピック史上初めて使われた、燃焼時に二酸化炭素を発生させない水素燃料の聖火が点灯された。水素はまさに太陽の燃料であり、聖火はこれにより日本という国の暗喩になった。
東日本大震災の被災地の再建と復興の願いは「Moving Forward」というテーマに溶け込む形で示された。国旗掲揚パートで国旗を運んだ人の中には福島県出身者がいた。聖火が日本に伝わったときには、福島から上陸した。会場での聖火リレーに被災地の子どもたち6人が選ばれただけでなく、周囲で聖火を迎える子どもたちが持つヒマワリの花束まで福島などの被災地から来たものだった。最後、水素の聖火が燃え上がったが、水素燃料は福島県浪江町の「福島水素エネルギー研究フィールド」で作られたもので、「3・11」の大震災後の福島の復興を象徴していた。
江戸時代の大工たちによる民家の上棟式でのトンカチなどを打つリズムは、現代の若者のタップダンスにつながった。大工たちが縄を引っ張ると、折り重なっていた木製の五輪がゆっくりと広がった。この材料は前回の東京オリンピックからの贈り物だ。1964年の東京オリンピックのときに各国の選手が持ってきた世界各地の樹木は57年を経て成長し、その間伐材が今回使われることになった。それだけでなく、メイン会場の「新国立競技場」設計者の隈研吾の構想も木材に注目していた。この日本47都道府県の木材を使って建てられた会場は、木材を建築材料とする伝統的理念と低炭素・環境保護の特質を表し、2005年の愛知万博の会場建築の理念を受け継ぎ、21世紀以降、コンクリートの使用を減らし、自然と緑に調和する日本建築の脱工業化の環境保護思考を反映した。会場の内外で、57年前の世界各国の樹木と今日の47都道府県の木材が時空を超えて一同に会し、東アジア的な「代々伝わる生命の力」という伝統的知恵を示した。無観客での開催となったが、隈研吾は禅機を感じて客席にさまざまな色をデザインし、「色」を使って「空」を均衡させ、「空不異色、色不異空、空即是色、色即是空」に新たな解釈を与えた。各国選手の入場時、空席に当てられたライトはその国旗の主な色に従って変化し、幻想的な応援団のような効果を生み、無観客の会場を温もりで満たした。
大工の鉢巻きや作業着の青と白の模様は、江戸時代の日本の庶民の服によく見られる柄で、日本文化における共同体意識を反映した。これをインスピレーションとして、「末広」という扇子の要素を溶け込ませ、東京オリンピックの二つのテーマを象徴するエンブレムがデザインされた。子どもたちが押し動かして、会場の巨大な積み木がエンブレムの形に並べられた。会場上空では、1824台のドローンが同じく巨大なエンブレムを作り、人類が家族であることを象徴する水晶のような青い地球に変化し、さまざまな肌の色の歌手が歌うジョン・レノンの『イマジン』と呼応し合った。江戸の町人の大工からドローンによる地球のパズルまでの展開は、明治以降の日本の論争のある歴史を飛び越えたと同時に、セレモニーの上演時間を短縮することにもなった。これは北京、ピョンチャン、ロンドン、ソチなどの開幕式において、本国の歴史について行われた詳細な説明とは対照的だった。
今回の開幕式では女性の要素がこれまでになく強調された。国旗掲揚と選手入場時の男女の旗手や、選手・審判・コーチが男女共に宣誓台に上がったことは、特に男女平等を強調していた。100歳の女性体操選手・アグネス・ケレチの回顧映像は、100年のオリンピックが人種・民族の平等から、今日の性別の平等を提唱する過程を経てきたことを示し、画面上に、米国の黒人選手・ジェシー・オーエンス、アフリカの裸足のランナー・アベベ・ビキラ、アジアの「飛人」・劉翔らが登場し、最後、13歳の女性スケボー選手・スカイ・ブラウンにフォーカスを絞って、平等意識が更なる進歩を勝ち取ったということを示した。パフォーマンスのパートでは、江戸の女性棟梁や、「東京オリンピックコントロールセンター」の女性上司、市川海老蔵より注目を浴びたジャズピアニストの上原ひろみ、最後に聖火を点灯したテニスプレイヤーの大坂なおみなど、女性が自身の存在感を十分に示したことは、確かに「時代は変わった」と感じさせるものだった。
このほか、今回のオリンピックのスローガンは、「より速く、より高く、より強く」にさらに「共に」を加えて、オリンピック精神の新たな発展を示し、人類共通の価値観に対する一歩進んだ追求を表した。1964年の東京オリンピックと2008年の北京オリンピック、その共通性は国家と民族の発展の自信を取り戻すというテーマだった。2021年の東京オリンピックは全人類による防疫というテーマに直面し、「共に」が極限の成績を求めることとは違う人類の新たな目標になった。これは世界の防災防疫の見守り合いと密接に呼応し、人類運命共同体という理念とも十分に合致し、北京冬季オリンピックと東京オリンピックのつながりにコネクターを残した。東京オリンピックの防疫のテーマと人類運命共同体をめぐる模索や経験は参考に値する。スポーツ競技とスポーツ精神を通じて、偏見と差別を克服し、多様な発展を尊重することは今日特に現実的な意義がある。オリンピックという「人類の祭典」を通じて、平等、包容、団結、尊重などの最大公約数を求めることは、まさに人類共通の価値観を目指すこと、および「一つの世界、一つの夢」をしっかり守ることを体現できるだろう。
人民中国インターネット版 2021年7月29日