漢字文明を反映・東京オリンピック開会式のセレモニー

2021-08-03 11:13:33

 

東京オリンピック開会式

 

SNSの発展で、東京オリンピックの開会式は過去に例がないほどネットユーザーの関心を集めたセレモニーとなった。様々な思いがワンクリックで全世界を駆け巡り、広大なネットの海を泳いで様々な意見と混じり合う。奇言や誹謗中傷の類はさておき、東京オリンピックの開会式が何を示し、また何を表しているのかがそこからは見えてきた。東京支局は日本在住の著名な学者である王敏さんに取材を行い、東京オリンピックの開会式について語ってもらった。

 

オープニングでは、昔の大工職人に扮した人々がにぎやかに木工作業を行うパフォーマンスが行われた。木材を叩く音がタップダンスのリズムと溶け合い、みんなが協力し合うことで木製の五輪の輪を完成させるという演出だ。この演出について王さんは「伝承、協力、平和というテーマを感じました」と語る。 

 

「このパフォーマンスは、伝承と協力という2つのメッセージを発信しています。木材で建物を建て、ものづくりをするのはアジアの特徴であり、木材加工は中日両国に古くから伝わる工芸でもあります。よって、アジア共通の文化の伝承を具現していたと言っていいでしょう。分業と協力が西側文化のタップダンスと木工職人という『東洋のリズム』と融合することで、協力の精神と多文化の融合という現代的な価値を伝えていると思います。これは、今の社会、そして人類が、新型コロナウイルス流行という未曾有の災いに見舞われているさなかに、伝統の力と知恵をもって認識を新たにし、現実に活用するという思いもあるでしょう」と語る王さんは、「パフォーマンスの後半では、東京オリンピックのテーマソングやオリンピックの歌が、世界各国の様々な年齢の役者によって歌われました。このようなコンビネーションも伝承や協力の精神を反映しており、アジア共通の理念を体現していると思います」と付け加えた。

 

富士山に着想を得たオリンピック聖火台

 

今回のオリンピックの聖火台は富士山から着想を得たと言われているが、これはどのような意味を持つのだろうか。王さんは「日本の象徴であり、世界遺産でもある富士山は、本来は自然の風景ですが、自然遺産では決してなく、信仰の対象として、文化の源泉と捉えられる世界文化遺産です。富士山自体に、分厚い文化と精神が内包されているのです」と、富士山自体が意味するものを語る。富士山における信仰は、天、地、人の間の「天と人の一体性」の境地と説明し、「ここには人と自然の調和、人と環境の共生、人と人の和睦が含まれます。これこそが中国の伝統文化の中核で、日本に伝来したものなのです。そして、同じ漢字文化圏同士が、数千年にわたって伝承しつづけてきたものへの追求でもあります。日本を表す文化のシンボルとしての富士山は、日本のみならず、アジア人や中国人の伝統的な文化や価値観をも反映しているのです」と説明した。

 

ドローンで地球をかたどる演出も行われた

 継承と協力の目的とは、アジア共通の理念と追求である永遠の平和を貫くことだ。王さんは「平和は東京オリンピックに一貫したテーマ」と定義、「オリンピックの開催国としての日本を語る時、嘉納治五郎氏を思い浮かべる人は多いでしょう」と語った。

嘉納治五郎は、日本の近代教育とスポーツの先駆者として知られ、「柔道の父」としてアジア初の国際オリンピック委員会の委員となった人物だ。アジアにおけるオリンピック開催の実現につとめ、スポーツを通じて平和を促進することに生涯を捧げた。

 

治五郎

1896年、嘉納は中国初の官費留学生のために部屋を借り、教育を行い、「亦楽書院」の設立に携わった。のち、中国人留学生の増加に伴い正式な教育機関に改め、1902年に「弘文学院」と名を変えた。魯迅、黄興、陳独秀などもここで学んでいた。

嘉納はなぜ中国人留学生を支援したのだろうか。「小さい頃から四書五経を傍らに育った嘉納は、教育とスポーツを通じて漢字文明に共通する価値観を探求することを学び、それを実践しました」と王さんは語る。事実、国際オリンピック委員会は、1940年のオリンピックを東京で行うことを決定したが、これは嘉納の尽力によるものであり、その目的は、オリンピックの開催によって戦争を食い止めるというものだった。しかし日本は戦争への足取りを早め、国際オリンピック委員会は最終的に東京での開催を中止した。

 

 

1964年の東京オリンピック(上)と今回の東京オリンピック(下)

 

1938年、嘉納は国際オリンピック委員会のカイロ会議に出席し、日本への帰路の途中で肺炎にかかり亡くなった。遺体はオリンピック旗でくるまれ、日本へと戻った。アジアの価値観と文明観の実践者としての嘉納は、確かにアジアでのオリンピック開催を見ないまま亡くなってしまったが、東京、ソウル、北京の各オリンピックと、すでに日本と韓国で行われ、かつ来年には北京で行われる冬季オリンピックには、嘉納の唱える団結の促進と平和祈念の思いがしっかりと届いている。「嘉納のことを思い出す人が果たしてどれだけいるかはわからないですが、未曾有の逆境に直面しつつも開催された今回の東京オリンピックには、嘉納の意図するものが貫かれていると思います」

今回の東京オリンピックの開会式では、クリエイターが「和」の要素を世界に発信することを目指し、全世界のオーディエンスが様々な声を寄せた。王さんは以下のように語っている。「2016年、外務省は日本のパスポートに葛飾北斎の富嶽三十六景を入れると発表しました。そのうちの一幅は大禹の伝説とも関わりがあります。これは単なる偶然かもしれないし、あるいは必然だったかもしれませんが、いずれにせよ、日本文化の源と出発点は漢字文明と脈々とつながっていることの証明だと思います」。そして、今回のオリンピックで示された文化的な意向については、より深い考察が望まれると言う。「明治以降、特に戦後の日本の価値観は西洋基準であり、それによって日本から漢字文明に対する価値観が失われつつあります。このような環境で育った日本の新たな世代は、さらに根本にさかのぼって漢字文明を洞察する必要があるでしょう」と時代の変化を語り、「東京オリンピック開会式で見られた和のエッセンスは、漢字文明を反映している。これが私の見解です」と締めくくった。(文=于文 画像はネットより)

王敏(Wang Min 

日本アジア共同体文化協力機構参与 

桜美林大学大学院特任教授 

治水神禹王研究会顧問 

国際メディア女性文化研究所副所長 

法政大学名誉教授 

拓殖大学昭和女子大学客員教授 

 

人民中国インターネット版 202183
関連文章