深センで会いましょう

2021-10-28 15:15:42

神里晏朱

2020年3月、私は両国国技館で相撲を観戦するイベントに参加しました。大学主催のイベントとはいえ、1人で参加した私は、知り合い同士で話が盛り上がっている空気に、溶け込めずにいました。その時、声をかけてくれた1人の留学生がいました。その時、彼女が私の人生に大きな影響を与えるとは、思ってもいませんでした。彼女はとても流暢な日本語を話していた為、てっきり日本人学生だと思い込んでいましたが、自己紹介の際に中国からの留学生だと知りました。その際、彼女は名前とニックネームを紹介していたのですが、私は発音がしやすい「リーリー」というニックネームで彼女を呼ぶことにしました。その時に彼女の名前や連絡先をメモしておけば、と何回後悔した事でしょう。今の私には彼女の近況はおろか、今どこで何をしているのか、知る術がありません。

なぜ私が今こんなにも、彼女の名前や連絡先を記録しなかった事を悔やんでいるのか。それは、リーリーは私が中国IT業界にのめり込む「きっかけ」となったからです。相撲観戦中、偶然にも私たちは隣り合わせの席になりました。休憩時間に、私は手持ちの話題の中から、中国にまつわるエピソードをリーリーに話しました。それは、アリババ主催の謎解きゲームに参加して、最新型スピーカーを景品として獲得したという話です。話し始めると、リーリーの目はキラキラと輝きだしました。その後、彼女は早口でアリババをはじめとする中国企業が、アメリカの巨大IT企業を追い上げる勢いにあることや、深センには中国版シリコンバレーがあることを教えてくれました。私は、中国にイノベーションを創出し続けている経済特区あることは知りませんでした。雷に打たれた様な衝撃を受けると同時に、もっと中国やIT業界を知りたいという思いに駆られました。休憩時間が終わっても、当の相撲観戦など二の次で、私たちはその話題で盛り上がっていました。気がつけば、相撲の試合は終わりをむかえ、私たちは話しを切り上げてあっさりと解散しました。

その日以降、私は中国語学習により力を入れ、最新のITテクノロジーにアンテナを貼る様になりました。そして今年8月、あの日から1年半ほどが経ち、リーリーを思いだす機会がありました。そう、東京オリンピックです。TOKYO2020を支える最新技術を調べていたところ、大会スタッフを熱中症から守る革新的な技術が目に飛び込んできました。偶然にも、その技術を開発したのは、あのアリババでした。その瞬間、私はリーリーの事を思い出すと同時に、お互いの近況や将来について語りたいという思いが込み上げてきました。中国IT業界の魅力を伝えてくれた、あのリーリーは今どこで何をしているのでしょうか。私は今、中国版シリコンバレーである深センで働く事を目標に、勉学と就職活動に励んでいます。もしリーリーと再会する日が来れば、その場所はきっと深センだろう。私は、自然とそう思うのです。もし再会できれば、彼女にお礼を言うと共に、次こそは忘れずに連絡先を聞きたいです。

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