心からの「谢谢」
北垣優衣
2年前、私は留学への不安と期待を胸に抱き中国に降り立ちました。たかが半年、されど半年、鮮やかな日々にするため現地の学生とたくさん友達になろう、と意気込んでいました。その思いが届いたのか、幸運なことに私は現地寮に住む機会が得られ思いも寄らない留学生活がスタートしました。
留学先の北京大学の現地寮は、手狭な部屋に2段ベッドが2つ並べられ4人で構成されていました。私のルームメイトは同じ大学からの日本人留学生であったものの、隣人さん、フロア全体は現地の学生が暮らしていました。洗面所やシャワー室などは共有スペースのため、朝眠い目をこすりながら「早上好(おはよう)」、寝るときは歯を磨きながら「晚安(おやすみ)」と話しかけるうちに友達の輪が広がっていきました。ある日、授業でクタクタになりながら寮の部屋に戻る途中、いつも洗面所で会う友達に「ちょっと待ってて」と呼び止められました。はて? と疑問に思いながら、彼女の部屋のドア前で待っていたところ「家族が送ってくれたからおすそわけ」と両手で抱えきれないほどのミカンを渡されました。さらに、「あ、ルームメイトの分も」といって一度部屋に戻り、スーパーの袋を持ってきて更にミカンを詰め込んでいきました。突然の大量ミカンに驚いた私は、「えーこんなに?」と言うと「いっぱいあるから~みんなでシェアして」と笑顔で返されました。「おすそわけ」は日本にも存在するものの、人生で初めて「おすそわけ」を体験した私は、人の温もりと優しさに胸が熱くなり心から「谢谢(ありがとう)」と述べました。てっきり彼女がとても心の優しい子だからかと思っていましたが、彼女だけでなくたくさんの寮の隣人、そして授業のクラスメイトが「おすそわけ」をしてくれました。私もおすそわけしたい、と思い家族が送ってくれた日本のお菓子や小物などをそれぞれの友人に渡したところ「えーいいのに! でも嬉しい!」と飛び跳ねて喜んでくれました。その笑顔がとても眩しく、そして同時に温かさや喜びに国境は関係ないのだなぁと心底思いました。
滞在から4カ月経ち、私の母が中国に遊びに来ることとなりました。現地で出来た一番の友達に是非会ってほしいと話しました。すると彼女は「緊張するよ…」とアタフタし始めました。この反応を予想していなかった私は驚き、「あ、もし嫌だったら全然大丈夫だよ」と伝えました。すると「違うよ~あなたが大事な友達だからその親に会うのが嬉しいの。服何着てこうかな。日本語勉強しなきゃ」と笑顔で答えてくれました。日本では、特に友人間では直接的に愛情表現することは少ないため、彼女の素直な気持ちの伝え方はとっても新鮮で照れくささと嬉しさが入り混じった気持ちになりました。むろん全ての方がこのように直接的に表現するわけではないものの、私が滞在する中ではプラスの感情もマイナスの感情も率直に伝えてくれる方が多く、日本にはない魅力を垣間見ました。
留学前、自分は中国に対する固定観念や偏見を持ち合わせていたと思います。しかし、実際に現地の方と話す中で、そうした偏見は触れた優しさによって溶かされていきました。日本は、どこか「中国」と一つに括るような考え方をする節があるように感じますが、「中国」は中国の文化、人、食など様々な要素で構成されていることを忘れてはいけないと、留学を通し考えさせられました。中国の滞在は、人との繋がり、そして自身の生き方を問いかけてくれた日々でした。心から「谢谢(ありがとう)」。