世界はこんなに広い、行って見てみたい。

2021-10-28 14:08:47

横尾大貴

世界那么大,我想去看看。”(「世界はこんな広い、行って見てみたい。」)皆さんはこの有名な言葉を知っていますか。これは河南省のとある中学校教師が、退職をする時に、退職届に書いた10文字です。2015年に中国のネットで話題になり、「史上最もロマンチックな辞職届だ」と賞賛されました。私も、これまで2度この言葉のように感じたことがあります。  ある一人の日本に住む中学生の少年は、何不自由なく生活を送っていました。よく勉学や部活に励み、順調に過ごしていました。ところが、夏休みのとある一日、突然目の前の人が何を言っているのか分からなくなってしまったのです。少年が「こんにちは」と言ってみると、返ってきた言葉は「你什么?」でした。そうです、そこは少年が初めて海外を訪れた旅行先の中国・北京だったのです。人生で初めて、生まれ育った日本ではない、未知の世界に触れた瞬間でした。それまで少年の世界の中心は日本であり、世界の人々に日本語は通じるものだと漠然と思っていました。歴史の教科書で見たものよりもはるかに雄大な天安門の上から、天安門広場にいる幾千の中国の人々を見て、ここもまた世界の一部なのだと思いました。それまで自分の考えていた世界が非常に小さかったことを実感しました。少年はとてつもなく大きい世界に大変驚き、こう思いました。「世界はこんなに広い、行って見てみたい」

その少年は、成長して大学生になりました。少年は、北京を訪れて以降、様々な国や地域を訪れました。そこで色々な経験をし、世界にいろんな国や地域が有ることを知りました。それまでの常識が何度も何度も覆されました。例えば、汗のしたたる夏の暑い日に、中国のレストランで出された飲み物はまさかの熱いお茶でした。「こんな暑い日に熱いお茶を出すなんてひどいではないか、非常識だ」と思ったのもつかの間、中国の食文化では冷たいものは体を冷やすものとして嫌われているということを知って、これが中国の常識であって相手を嫌な気持ちにさせないための親切心でもあるのだと実感しました。そのようなかけがえのない経験を積んでいるさなか、世界を震撼させるウイルスが全世界に拡大しました。このウイルスにより多くの人が悲しい思いをしました。少年にもその巨大な波が押し寄せてきました。少年は留学を断念し、姉夫婦の結婚式も延期になりました。また、少年の最愛の彼女もこの病気からは逃れられませんでした。少年はひどく落ち込んでいました。おそらく世界の多くの人が同じように肩を落とし、涙を流したでしょう。しかし、少年は同時に奇跡も目にしました。仲が悪いのではないかと疑っていた日中両国の国民達がお互いを応援し合っていたのです。日本から中国に送られた支援物資に「山川異域 風月同天」の言葉が書かれていたのを目にし、少年は感動を覚えました。この閉ざされた状況下でも世界は繋がっていたのです。そこには国をも超えた人々の熱い想いが果てしなく広がっていました。この世界の人々の様々な想いを見て、少年は再び思いました。「世界はこんなに広い、行って見てみたい」

その少年こそ、この文章を書いた私です。初めて北京に行ったときから現在に至るまで、世界そして中国に対する希望と熱意を持ち続けています。そして、その原点である中国は私の人生をより豊かにしました。天安門でのあの感動こそが、私と中国との始まりでした。中国人と挨拶すら出来なかったあの少年が中国の言葉や文化を学び、たくさんの中国人の友達を作りました。まだ私の知る世界そして中国はまだまだ小さいのかもしれません。だから私は現在の厳しい状況のなかで声を大にして言いたいです。「世界、そして中国はこんなに広い、私は行って見てみたい」 

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