水魚の交わり

2022-02-22 10:18:20

清水若葉

「奥に引っ込め、日本人に代われと怒鳴られました。私の名札を見た途端」悲しげな表情を浮かべそう話していたのは、中国人留学生の王吟菲さんだ。これは、彼女が日本のコンビニエンスストアでアルバイトをしていた際、客の男性にかけられた言葉である。ただ、いつも通り接客をしていただけなのに。

この差別と捉えられるような行為は、異文化への理解不足や自文化への行き過ぎた誇りによるものだと言える。日本と中国には、多種多様な人々が暮らしている。同じ人など一人もいない。ただ「違い」があるだけなのに、国と国との間で優劣の差をつけてしまう。

「孤之有孔明 猶魚之有水也」この漢文は、三国時代に劉備が三顧の礼で迎えた諸葛孔明との親密な交友関係を表している。「水魚の交わり」ということわざの元になった漢文であり、なくてはならない関係を表す語句となっている。空海や阿倍仲麻呂がかつて遣唐使として派遣された場所。中国の律令をお手本として制定された大宝律令。私の祖父が住む京都の碁盤の目に似た町造りは、当時の中国の街並みから来ている。古くから日本と中国は切っても切れない関係だ。現在もグローバル化が進む中で、隣国の中国との関係は切り離すことができない。しかし、周囲には嫌悪感を抱いている人が少なからずいるように感じる。

魚と水の関係のように、日本と中国が親密な関係になるために必要なこと。それは、目の前にいる相手に対して、親しみを持って接することだろう。以前中国を訪れた際、このことを痛感した。中国で電車に乗っていたところ、同じ車両に乗り合わせた中国人の子供たちが「日本から来たの?」と話しかけてくれた。日本から観光に来ていると答えると、中国には地域によって異なった食文化があること、グローバル化が進んでおり学校では英語教育に力が入れられていることなど、私の知らないことをたくさん教えてくれた。そして、日本はどんなところなのか、目を輝かせながら聞いてきてくれた。電車から降りる前に仲良くなった子供たちがくれたプレゼントのキーホルダーは、今でも大切な宝物だ。中国の方が親しみを持って話しかけてくれたからこそ、築くことのできた関係。自分の目で見て、心で感じ、自分が知らなかったことへの良さを理解することは、異文化理解の第一歩になるということを、身をもって感じることができた。

これからの未来を担うのは、私たちの若い世代である。若い世代のエネルギーは、歴史認識を乗り越え、相互理解と相互信頼に基づく新たな日中関係を切り拓くことができると考える。優劣のない対等な関係の中で「違い」を認め合える社会。これが私の求める未来だ。

私は、来年からジャーナリストとして働くことを決めた。現在、新型コロナウイルスの影響で、実際に現地を訪れ直接交流することは以前より難しくなっている。だからこそ、私の知っている中国の温かさを伝えると共に、差別で苦しむ人の声を届けることで、本当に偏見の目を持っていないか自らを問いただすきっかけを作りたい。王吟菲さんのように偏見で苦しむ人が増えぬよう、私は社会にはたらきかけたい。

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