わたしの野望

2021-10-28 15:28:14

久米村花菜

皆さんには野望があるだろうか。

漢方と言うと多くの人は中国の薬というイメージを持つかもしれない。しかし、漢方とは日本の伝統医学のことを指し、漢方で使われる薬を漢方薬と言う。漢方は中国が漢と呼ばれていた時代に中国から日本に伝わった医学なのでそう呼ばれ、その後は日本で発展してきた。一方で中国の伝統医学は中医学と呼ばれ、その薬は中薬と言う。どちらも元々中国で生み出された医学なので似ているところは多いが、違うところも多々あるのだ。

将来研究者になりたいと考えるようになった私は、その研究対象として漠然と漢方薬を考えるようになった。けれども高校2年生のときにその思いを中薬に強く向けることになる出来事があった。高校の体験学習の一環で、将来なりたいと思っている職業の何人かにインタビューをすることになり、ペアになった友達が選んだ薬局の一つが中薬を扱う薬局だったのだ。そこでインタビューを受けてくださった店主は、生粋の日本人だが中国の大学で中薬を学び日本で薬局を開いた方で、中医学の考え方や処方の仕方など様々なことを教えてくれた。特に、中国の思想の一つである陰陽五行説がどんなに人や食べ物、季節など自然の全てに結びついていて、それが五臓にも結びついているために治るという話や、友達の舌や手を診るだけで彼女の慢性的な不調を的確に言い当て、食事や生活習慣のアドバイスまでしていたことは今でも忘れられない。スピリチュアルにすら思えるのに、実は何千年も前から莫大な経験と共に本当に人々を治し、その長きに渡る歴史までもが垣間見えて、店主が見せてくれたその中医学は魔法のようだった。私はそれまで中薬のことをほとんど知らず、漢方薬との違いも分からなかったのだが、そのお話を聞いて漢方薬よりも中薬とその理論となる中医学を勉強したいという気持ちが非常に高まった。

その後私は大学の薬学部に進学し、東洋医学研究会という主に漢方を学ぶサークルに入った。残念ながらコロナ下で大学2年生となった今でもサークル活動はオンライン上でのみだが、大学付属の漢方の研究所の先生方が講義をして下さり、漢方メインではあるが中医学に通じるところも多く非常に有意義な学びになっている。また、いつか中国に行って本場の中薬を学びたいと思い、大学に入ってから中国語も勉強しだした。今年からは中国人の言語パートナーができ、話の中で毎回新しく文化の差を感じることがある。お隣の国なのにこうも違うものなのかと話を聞くたびにとても面白く感じるし、次はどんな違いを見つけられるだろうかとわくわくする。

日本では科学的な根拠が明らかでないという声から多くの漢方薬が保険適用外となっていて、まだ自国の伝統医学である漢方でさえ普及していない。昔と比べれば保険適用の漢方薬が増えて臨床で使われるようになったと言っても、漢方医学の考えを理解しないまま西洋医学の薬と同じように患者に漢方薬を処方してしまう医師が多い。漢方薬も中薬も、症状が同じでも患者一人一人の身体の状態が違えば処方は異なるので、その場合正しい使い方とは言えないのだ。

漢方や中医学など東洋医学が得意とする病気の領域と西洋医学が得意とするものは異なる。そのため、どちらが良いというのではなくどちらも併用すればいいと思う。実際、中国では中医学は西洋医学と同じように身近で一般的であり、中医学と西洋医学のどちらもしっかりと学んでいる医師が数多くいる。近年では、欧米でも中医学がTCM (Traditional Chinese Medicine)の名で代替医療の一つとして受け入れられてきている。将来、日本でも中医学が受け入れられて西洋医学と併用され、西洋医学が苦手とする病気に苦しむ患者が大幅に減るように、私はその理論を解明したい。それが私の野望である。

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