対話こそ最優先の中日関係

2022-09-14 17:21:22

福田康夫=語り手 王敏=聞き手

中日国交正常化50周年という節目の年に当たり、これまでに中日が共に築き上げてきた共通の認識を改めて確認し、新たな未来予想図を描く時が来た。半世紀という長い月日の中で、中日が共に歩んできた道のりを振り返る。同時に、さまざまな課題を抱え目まぐるしく変動する世界情勢の見方なども交え、中国に対する期待と中日関係の将来について、長年友好に尽力してきた福田康夫元首相に話を聞いた。 

  

  

運命共同体の中国と日本 

王敏 1972年9月29日、周恩来総理と田中角栄首相が中日共同声明に調印してから、50年の月日がたちました。古くから中国と日本は深い交わりを持つ隣国として、発展を共にしてきました。改めて歴史の歩みを振り返ってみていかがでしょうか。 

福田康夫 日本は古来、一衣帯水のつながりで文化や習慣など、生活にかかわる分野を中国大陸に依拠してきました。日中は歴史上、疎遠の時代はなかったのです。だが20世紀の一時期、日本は間違った方向へ踏み外してしまった。その反省と教訓から、戦後の日本は平和貢献の国家を第一の目標にして、特に中国との関係修復に努力を重ねてきました。 

私の父・福田赳夫(1905~95年)は、日中は無論、世界は「運命共同体」と私によく語り、理念の中核にしていたことは間違いありません。その原点は多くの日本人同様に、近隣の中国とは根っこがつながっているという素朴な考えに由来したようです。 

首相になった福田赳夫が日中関係に対して、「全方位平和外交」を主張し、国交正常化の後の日中のチャレンジとなった平和友好条約の締結を推し進めて実現させました。 

1978年、当時の鄧小平副総理が初訪日し、新中国の指導者として首相官邸で同年10月23日、日中平和友好条約の批准書交換式が行われました。双方の署名が終わったとき、鄧小平氏と福田赳夫が互いに抱擁し合った。心と心のつながる「運命共同体」の橋が架かった瞬間でした。父を助ける秘書でいた私は、今でもその光景に接したときの感動を忘れることができません。 

  

14回「北京-東京フォーラム」の開幕式で基調演説を行う福田元首相(写真・董芳/人民画報) 

 福田さんもお父様の意志をしっかりと受け継いで、中日のさらなる緊密な連携が実現できるよう力を入れてきましたね。 

福田 私は2007年9月26日、首相に就任しました。その2日後、当時の温家宝総理と電話会談しています。日中首脳による電話会談としては史上初とされました。翌08年5月7日、日本訪問中の胡錦濤国家主席と私は、「『戦略的互恵関係』の包括的推進に関する日中共同声明」に署名しました。いずれも運命共同体の軌道に沿って進んでまいりました。 

中国共産党第18回全国代表大会(2012年)以降、習近平国家主席は世界は人類運命共同体の構築に向けて努めるべきだと提唱していますが、「人類運命共同体を構築し、協力し合ってさらに美しい世界を建設する」という提案に対して、感激に堪えません。  

 中国と日本は地理も文化も近しい二つの国として、紛れもなく運命共同体です。これから運命共同体として、どのような課題に協力して取り組むべきだと思いますか。 

福田 日中に共通する重要課題として、気候変動を含めた環境問題が第一に挙げられ、とても深刻な問題だと思います。政治家のリーダーシップも大事ですが、国民一人一人の行動も重要です。例えば、不必要な消費は行わない、エネルギーは大切に使うなど、質素とシンプルなライフスタイルを美德とする。国民がこのことをよく理解して、そうしたことへの協力が必要でしょう。そうしなければ、地球の環境が改善されることはありません。 

 両国の辞典には「質素」「節約」「清廉」という言葉があり、いずれもプラスの表現とされ、美徳と捉えられてきました。 

福田 中国は人口14億人の大国です。地球全体の人口の20%ですから、地球全体に対する責任もそれだけ大きいと言えるのではないでしょうか。 

環境問題は地球規模で取り組むべき課題であり、人類がみんなで協力し合うしかありません。戦争などしている暇はないのです。戦争をやって、火薬の爆発を起こせば、それだけエネルギーをたくさん使うわけですし、CO2(二酸化炭素)がたくさん発生しますから、そういうことが起きないよう平和的にやっていかなければいけないのです。 

いずれにしても日本と中国は、気候変動問題をはじめとする地球環境の危機に際して、持続可能な社会の構築に向けた協力について話し合い、地球規模の課題に対して協力し合うことがとても重要だと考えています。 

 福田さんも気付かれたでしょうが、今年のボアオ・アジアフォーラム会場への電力供給は、100%エコ電気でした。 

福田 私自身、中国が環境に優しい措置を講じることにはとても賛成ですし、今後のエコ分野での発展にも大きく期待しています。中国の一番の変化は経済の発展ですが、経済の数値だけで国際社会での地位を高めることはできません。今後、中国が国際社会にどのように貢献していくかが、世界の注目するところだと思います。だから、信頼の維持はとても重要な課題です。信頼がなければ協力は生まれません。例えばRCEP(地域的な包括的経済連携)の本質は各国のお互いの協力の上に維持されるものです。相互信頼がなければ、経済貿易の促進もないでしょう。 

  

昨年4月15日の中国国際技術輸出入交易会の会場で、唯一の外国ブースとして注目を集めた大阪府のブース(東方IC) 

  

世界の分断に橋架ける 

 今の世界情勢について伺います。 

福田 今、世界はロシアとウクライナの衝突によって、大きな分断と混乱の危機に直面しています。また何かのきっかけで、より深刻で悲惨な事態にもなりかねません。この上ない慎重さが求められます。 

第一に、全ての人類にとり、一刻も早く実現すべきことは、人と人の争いをやめること。 

いつの時代も、主張のぶつかり合いを解決するために外交があり、国際間の主張の違いは、あくまでも話し合いによって決着すべきです。徹底した話し合いでも結論に至らない場合は、「棚上げ」という方法もあります。武力衝突は外交の失敗です。これは双方に責任があります。しかし「外交の失敗」と片付けて「だから衝突する」というのもあまりにも短絡すぎます。それは破壊と殺人を伴うからです。一刻も早く人命や都市の破壊をやめるよう要求するのみです。 

 ロシアとウクライナが、実際に衝突を止める可能性はあるでしょうか。 

福田 客観的に見ると、現状での実現は容易ではありません。それは、グローバルな世界では利害関係国が多く、複雑な様相を呈しているからです。当事者はロシアとウクライナですが、ロシアとNATO(北大西洋条約機構)の争いでもあります。しかし実際は、ロシアとNATOの一員である米国との争いと見ている人も多いと思います。争いの背景に核兵器の存在も見え隠れしています。終息に向かってどの国がどう動き、国連がどうするかなど、これからさまざまな意見が出てくるでしょう。その道筋がまだ見えていないのが現状です。 

実態を見れば、米国がロシアとの紛争の終止に至る道筋を付ける役割を担うのが最も適しているように思えます。そして、これ以上の犠牲者を出さないように、時間を急ぐ必要があります。 

 そのためにはどうすれば良いのでしょうか。 

福田 私は、調停を進める上で、米国の役割を最も期待しています。国連やIMF(国際通貨基金)、WTO(世界貿易機関)、世界銀行など、国際社会と世界経済のシステムは、いずれも米国が中心になって構築し運営してきたものです。これらは、第2次大戦後の世界の平和と安定を確保する上で大きな役割を果たしてきました。 

しかしながら、戦後80年もたつと、国連を要とするこのシステムは改善が必要になっていることも事実です。また、食料不足や世界の経済にも影響を与えている現状に対し、関係国のみならず、多くの国の協力が必要でしょう。日本も、この取り組みに積極的に参加・協力していくべきですし、大国である中国の協力は必ず求められます。 

中国には中心的立場で役割を果たしてもらいたいと思います。中国はロシアと長い国境線を分かち、国境地域では人や経済の交流もあります。また、ウクライナともいろいろな交流があることも承知しています。同時に中国は、米国とも太いパイプを築いており、今や世界第2位の経済大国であり、軍事大国でもあります。大きな役割を果たす十分な資格があります。それだけに国際社会に対する責任は極めて大きいのです。世界に羽ばたく中国は、世界から求められる中国であってほしい。 

 「大国」の役割について、どのように考えますか。 

福田 世界が困窮しているときに、今や大国は傍観者にとどまることはできません。世界秩序の安定につながる大きな役割をどのような形で果たすか――世界は注目していると思います。 

日本には「陰徳」という言葉があり、今でも使われています。言葉の意味は、人に知られない善行、隠れた功徳は後になるほど評価が高くなる、ということです。元来、この言葉は中国の古典からきたものですから、中国の人はよく理解されていると思います。なぜこのような言葉を引き合いに出したかというと、今回の調停作戦は非常に難しいだけに、特別な働き掛けが必要と思うからです。 

 今一度「人類運命共同体」の意味を考えるべきでしょうね。 

福田 習主席の「人類運命共同体」という概念に、私はかねてから賛同しています。これは、感染症や気候変動の問題だけでなく、今や人類は明らかに運命共同体だからです。また経済面でも同様です。日本も米国も、中国を切り離しての経済活動は考えられません。中国にとっても、日米などを切り離すことは良いことではないでしょう。 

人類が一人一人の命を大切にする運命共同体であるなら、重い命が日々失われる現状は許されません。一刻も早い争いの終息を日米中の連携から実現できれば良いと思います。 

  

初心貫き次世代に託す 

 改めて、今後の中日関係の発展における交流の重要性についてどう考えますか。 

福田 近頃の厳しい情勢を思うと、日中には一刻も早く関係を改善してほしいと願うばかりです。日本にとって中国は隣国であり、文化的に最も大きな影響を受けてきた国であります。中国と日本の2000年にも及ぶ友好往来の歴史の中で、両国の文化交流はまさに大河のごとき大きな役割を果たしてきました。 

異なる文化の交流とは、互いの文化の違いを認め、互いに尊重し、相互に理解しようとする姿勢を意味します。異なる文化的背景を持つ者同士が、違う世界観、違う習慣を互いに理解し、共に育み耕していく土の上にこそ、真の友好の豊かな実りが実現すると信じます。 

 今年の5月、福田さんは中国留日同学総会の特別顧問に就任しました。文化の交流を推し進めるという意味でも、日頃から留学生に大きな関心を寄せていますね。 

福田 今年の五四青年節(5月4日)に、中国留日同学総会が、京都・嵐山にある周恩来総理の「雨後嵐山」詩碑と、43年前に建造された「雨中嵐山」詩碑を訪れたと聞きました。私は、周恩来総理が残した貴重な財産は何かとよく考えます。また、周総理が日中友好に尽力する原動力は何だったのかとも考えます。それは紛れもなく、周総理が若い頃に日本に留学したときの経験でしょう。 

日中の平和発展の事業を実践していく上で、若い世代に希望を託すことは欠かせません。私たちの世代では四つの政治文書に署名し、交流を推進してきました。今後もその趣旨を実行し、定着させていくのは、次の世代の人々です。その中で、日中の留学生たちは草の根の力となるものであり、しっかりとした考えと使命感を持ってもらいたいと思います。また、中国留日同学総会の皆さんには、周総理を手本とし、日中関係の絶え間ない発展を後押ししていってほしいですね。 

  

訪中交流の活動の中で、武術を通して友情を結ぶ中日の学生(写真・蔡夢瑶/人民中国) 

 そのために最優先すべき課題は何だと思いますか。 

福田 日中は一衣帯水、利害一致の隣国です。国民はこの点をしっかり心に刻むべきだと思います。その上で共に考え、経済・人員・文化など各分野での交流をしていくべきだと思います。特に往来が非常に不便な現在、全方位的な文化交流をしていくべきだと思います。現時点で最優先すべきは、ともかく対話に対話を重ねていくことです。 

 2000年以上にわたって語り合ってきたにもかかわらず、まだ話し合いが足りませんね。ありがとうございました。 

  

 

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