日中で築くハーモニー

2022-10-25 16:38:57

 神田 真帆


「ドコドコジャーン」

私がいつものように練習をしていたある日、部屋に中国人留学生が現れた。これが、私が中国に関心を持ったきっかけだった。

私は市民吹奏楽団に所属している大学4年生。担当はパーカッション。入団した理由の1つは、常任指揮者が中学の吹奏楽部でお世話になった先生だったからである。日本だけでなく中国など海外でも吹奏楽指導をしており、様々な国の吹奏楽事情に精通している。突如現れた中国人留学生は、彼の紹介だった。好奇心旺盛な私は、信頼している先生の紹介というのもあり積極的に話しかけた。留学生と仲良くなりたい思いと同時に中国に対して偏見があり、少し身構えていた。中国は競争が激しい社会であるので、気が強い人が多いという印象だったからだ。しかし彼はとてもおだやかで優しく、すぐに仲良くなれた。今では出会った時よりも日本語が上手になった彼と冗談を言い合えるほどコミュニケーションがスムーズになった。

彼は日本の吹奏楽文化を学び、自国で吹奏楽を広めたいという思いから日本に留学したと話してくれた。これまで日本の吹奏楽事情しか知らなかった私は、吹奏楽は全世界で当たり前にある文化だと思っていたが、実際は全く異なっていた。日本では、吹奏楽部がない学校の方が少ないくらい、広まっている。しかし中国では都会でも吹奏楽部の数は少なく、彼の出身地だと20分の1校ほどの割合だと言う。そのため、そもそも吹奏楽文化を知らないまま大人になる人も多く、彼も大学生になるまでほとんど知らなかったそうだ。これは、中国と日本の吹奏楽教育環境の差が深く関わっている。中国は日本に比べて学生の勉強の負担が大きく、課外活動をする余裕がない背景があった。近年は政策が変わり、課外活動の時間も確保する流れが生まれたため、この流れに乗って吹奏楽教育環境が改善されることを彼は期待しているそうだ。

彼と出会ってから私はとてもたくさんのことを知った。中国についてだけでなく、彼から話を聞くことで、日本についても知ることができた。日本の吹奏楽環境は中国から羨ましがられるほど整っていること。これには、学生生活の文化的な背景の差が関わっており、これから改善されつつあることを知った。しかし課題はまだある。彼は、金銭的な問題によって日本などへの留学ができずに、吹奏楽指導者の道を諦める人もいると言っていた。これを聞いて私は、日中の繋がりがもっと身近になれば、中国の吹奏楽環境の改善に貢献できるのではと思った。

ところで、私は大学で情報学を専攻している。そのため中国のICT化にも関心がある。中国の学生生活は勉強の負担が大きいと前述したが、人口が多く競争が激しい中国の環境を考えたら自然であり、これが中国社会において大きな利益をもたらしているのも事実である。一例がまさにICT化である。日本は石橋を叩いて渡る国民性から、緻密さや丁寧さに定評がある。一方中国は、まずやってみるという国民性から、ビジネスの速度に定評があり、ICT化の発展はこのスピード感と相性が良かったのだろう。

人と人は助け合うものである。長所は活かし、短所は他の誰かの長所で補えば良い。これは国同士の関わりでも変わらない。日本の良さと中国の良さを合わせて互いに協力し合えば、吹奏楽文化は中国をはじめ全世界に広めることができると思うし、その他についても同様に、より良い方向へ共に進むことができると思う。私は中国人留学生と出会ったことで、吹奏楽文化を中国に広めるにはどうしたら良いか考える機会を得た。日中で協力して解決できる課題は、まだ気づけていないだけでたくさんあると思う。そのため、中国に実際に行って多くの人や文化に触れ、日本を見直し、様々な発見をしたい。隣接するこの2つの国がより良い関係を築くことで、お互いに成長できることを期待している。誰もが聴いて心地よいハーモニーのように。


 

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