異国の友人

2022-10-25 16:40:20
野澤 拓也


僕は中国人によく会う。というのも、僕の最寄りの駅には中国人や韓国人、インド人など多くの外国人が住んでいるからだ。そのため、その駅を利用する時は逆に日本語を聞くことの方が少ない。最近ではさらに中国人が増え、駅は中国語の看板を掲げる店でいっぱいで、日本にいながら中国に来たような気分になれる。この駅が好きだ。いい意味でうるさくて、暖かい雰囲気で落ち着く。この駅を見てると、嫌でも彼を思い出す。

僕が小学校4年生の頃先生に「来週中国からの転校生が来ます」と告げられた。ワクワクしながら土日を挟み月曜日の朝、先生が教室の一つ隣の準備室から1人の男性を連れて教室に入ってきた。ここで男性と表現するのは、彼は小学4年生というにはあまりにも大きく、大人のような顔立ちをしていたからだ。後から聞いた話だが、中国では小学校に入る年齢が1年遅く、彼はその時1歳年上だった。先生が少し転校生の紹介をすると、彼に軽い自己紹介をするよう言った。しかし、彼は黒板に自分の名前を書いた後、ずっと黙っていた。先生は様子を察してか席を案内した。一番後ろの左端、僕の真横だった。怖い。隣に大人がいる、僕はそう思った。意を決して話しかけてみたが、日本語はまだ話せない様子で黙っていた。僕は幼く日本語を話せるのが普通だと思っていたため、無視されたのだと思った。少し腹が立ち、それ以降話す事は少なくなった。

ある時習字の時間があった。僕は習字が好きだった。授業では毎回半紙5枚分書くことが決まっていた。なのでいつも僕と友人(以降はMと呼ぶことにする)は適当に5枚を終わらせ、余った時間で床に敷いた新聞紙で面白い記事を見つけるのが恒例となっていたからだ。その日もいつも通り友達と笑える記事を探していた。けれどもあまり面白い記事はなかった。がっかりしながらふとK(転校生をKとする)の方を見ると面白い記事があった。ハゲている男性がドアップで写っていたのだ。そして僕はKの新聞紙を取り上げ、僕が新聞紙の顔の部分を切り取り、両端に輪ゴムをつけお面のようにした。Kは少し怒っていたが、僕の行動を見ると笑っていた。それを機に一気に僕とKは仲が縮まった。言葉が無くとも仲良くなれた事が嬉しかったのを覚えている。そこから僕とMは度々Kの家を訪れた。言語を教えあったり、ゲームのレアキャラを自慢しあったり、Kのお母さんに料理を振る舞って貰ったりした。Kの家族は皆温かくて、家族のように扱ってくれた。家に毎日のように押しかける俺とMを快く受け入れてくれた。そしてあっという間に中学生になり、KMとは家が近いのもあり、学校は同じになった。クラスは一度も同じにならなかったがスマホゲームでずっと仲良くしていた。しかし高校に上がるにつれ忙しくなり疎遠気味になっていた。

高校一年生のある日、Kから手紙が来た。家が近いのに何で手紙を送ってきたのか不思議に思ったが、とりあえず手紙を開いた。手紙には達筆で僕に対しての感謝が綴られていた。手紙を見た後すぐにMに連絡した。Mにも同じ手紙が届いていたようで、俺とMはすぐにKの家に集まった。表札にはKの苗字が無い。もう遅かった。手紙の最後に中国に帰る旨が書かれていた。僕はKに対して怒りと悲しさを覚えた。何も言わずに帰るなんて。KKの家族のおかげで中国人に対する印象も大きく変わったというのに。感謝したいのはこっちなのに。Kにいくら連絡してもなぜか返信は帰ってこない。やるせない気持ちでいっぱいだった。

高校2年生に上がってすぐの頃、Kから電話が来た。電話が来て驚いたが、それと同時に怒りが湧いた。なぜ何も言わずに帰ったのか、聞く事は山ほどあった。しかしまたKの声を聞ける事が嬉しかった。そして電話に出るとKは驚くべき事を口にした。馬鹿野郎。遅いよ。お前がいない間に限定イベントキャラゲットしたぞ。自慢したいから来年帰ってこい。

 

 


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