私が創る未来の私

2022-10-25 16:42:33
多田 彩華

 「いつか私の音楽を、王さんが見た中国を、見つけたい。」月映えの夜、頬に雫が滴る感覚と揺るがぬ決意を、私は忘れた日はない。

私が中国と出会ったきっかけは二胡と出会った事から始まる。塾に向かう途中、路上で二胡を演奏している若い女性がいた。最初は「どうしてこんな夜に路上で演奏しているのかな。」と冷ややかな視線を送りながら通り過ぎていたが、来る日も来る日も彼女は路上で二胡を演奏していた。そんな彼女の音はいつも安定した音ばかりで、しっとりとした雰囲気の音楽から淡泊な音楽、更には緊張感溢れる音楽などのさまざまな音楽を奏でて、私は彼女の音楽に魅了された。

それから私は毎週彼女のもとへ通った。すっかり私の顔も覚えられてしまい、行くたびに「今日も来たね。待ってたよ。」と言ってもらえる関係にまで発展した。彼女は王さんと言い、河南省出身の方だ。王さんは二胡が上手なだけでなく、沢山の人に愛される人柄で、私は彼女のことを尊敬していた。そんなある日、私は王さんのご自宅に招待された。王さんのご自宅には沢山の写真が飾られていた。故宮の写真や上海ディズニーランドでの写真など、どれも中国で撮られた写真ばかりだった。ずっと写真を見つめている私に王さんは「中国って深いのよ。」とただ一言だけ言った。私は王さんの言葉に重みを感じた一方で、少々理解できなかった。そこで私は王さんに中国の話を強請った。王さんは二つ返事で引き受けてくれ、沢山の話を聞いた。その中でも特に二胡について多く語ってくれた。王さんは「同じ楽器で同じ曲を奏でたって、誰一人同じ音楽にならないの。」とよく言っていた。そして「二胡、弾いてみなよ。」と言われて私は人生で初めて二胡を弾いた。最初は」「ギー、ギー」と汚い音しか鳴らなかったが、しだいに王さんのような美しい音にはまだ程遠いけど、音が鳴るようになった。嬉しくてたまらなかった。でも、王さんの言葉の意味を理解したことで、悔しい気持ちもあった。

複雑な感情を抱えている中で、私は一つの夢を見つけることができた。「二胡を学びたい。そして、王さんが教えてくれた中国を見つけたい。」という夢だ。しかし、残念ながら当時の私は中学生で、勉強や部活動で忙しく、とても二胡を学んだり、王さんが語ってくれた中国を見に行く余裕はなかった。なので、高校生になったら二胡を本格的に学び、大人になってから中国語の勉強をして中国に行くことを決心した。

時は流れ、世界的に新型コロナウイルスが流行したことにより、王さんは中国へ帰ってしまった。私は二胡を学ぶことと中国へ行くことを先延ばしにした過去の私を恨んだ。でも王さんが私に残した言葉や希望が覆ることはなく、むしろより一層覚悟が深まった気がする。

それから数ヶ月後、私は二胡教室に通えるようになり、高校三年生になった今でも毎日欠かさず練習に取り組んでいる。さらに中国語の学習にも力を入れていて、近々留学することも視野に入れている。今はまだ実力不足な部分もあるが、夢が実現できる日を楽しみに努力を惜しまずに誠一杯頑張りたい。

 

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