隣の席の彼女

2022-10-26 10:17:41

篠原 麻耶


先日、中国留学で知り合った中国人の友人から結婚したと知らせがあった。彼女は私が河北省へ留学した時の大学の同級生である。結婚の報告を聞き、嬉しさがこみ上げてきたのと同時に中国で暮らしていたあの時のことを思い出した。

私は中国の大学へ3年次から正規編入したため、学部の授業へ途中から合流した。もちろんクラスには中国人学生のみで外国人は私だけである。初日、早く登校したのにもかかわらず120人程度が収まる教室が既に満席状態になっていた。空いている座席に座ると近くの学生から「そこは人が来るから席が空いていない」と言われた。人口が多い中国では教室の座席を確保するのも大変である。違う空席を見つけほっと座ったのもつかの間、メールで日本人が編入したと伝わったのか今まで静かだった教室が一瞬にして騒がしくなった。当時、この騒がしさが普通の転校生が来る時のあのザワつきなのか、日本人だったからなのか、何だったのかは分からなかった。

授業が始まり何日間かは好奇な眼差しを浴び、前の席に座っていた子が振り返ってカメラを向けてくることもあった。余地のない教室で友達もおらず息苦しかった。

しかしながら私は授業で使用する教科書がいくつか必要で、それらの購入場所を探さなければならない。私はたまたまその授業で隣の席に座っていた「彼女」に自信のない小さな声で恐る恐る尋ねてみた。すると彼女は嫌な顔一つせず親切に教えてくれ、WeChatも交換した。その夜、一人で学食を食べていたら彼女から連絡がきた。「授業は私達と一緒に受けてもいいし、私があなたの席を取っておいてあげる。北京を熟知しているから休日はあなたを遊びに連れて行ってあげるし、実家に遊びに来ていいよ。」と。張り詰めていた心がじんわりと温かくなって涙が出た。

それ以降、彼女が私の分の席も確保してくれ、毎日隣で授業を受けた。グループワークも一緒のグループに入れてくれて、他の学生と交流も次第に増えていった。授業以外にも中国語や中国文化についても教えてくれた。河北省は厳しい寒さのため、女子学生達は裏起毛の温かいジーンズで寒さをしのぎながらファッションを楽しんでいた。授業の合間の昼食と夕食も彼女の友達たちとも共に過ごし、休日には映画館や買い物に出かけた。もし彼女がいなかったら私は真冬に薄いジーンズで凍えていたと思うし、学校近くの羊杂汤の店のリピーターになることも無かっただろう。休日は部屋にこもっていたと思う。

2020年冬休みに日本に一時帰国したのだが、その時期コロナウイルスが日本でも流行し始め、卒業までの半年間は中国に戻ることができず日本で卒業論文を書いた。不定期ではあったが彼女と電話やチャットでコロナの状況やお互いの論文、生活についてやりとりした。卒業時にはもちろん卒業式は無く、同級生達と一緒に写真を撮ることも叶わなかったのだが、彼女は卒業アルバムに日本人である私の写真や一言も載せようと連絡をくれた。それらのたくさんの温かい思いやりが今でも心に残っている。国籍関係なく友人として偏見なく接してくれた彼女を含めた友人には感謝でいっぱいだ。私も中国語を引き続き勉強し、絶えず交流を続けていきたい。

2022106日、彼女は結婚式を挙げる。本当は中国に行って直接彼女を祝いたいのだがコロナで日中間を簡単に行き来することができない。それがとても悔しいが、また中国に行けるようになったら彼女に会って伝えたい。学生時代、仲良くしてくれてありがとう。結婚おめでとう。これからもよろしく。

 

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