2022-11-11 11:34:51

磯上 潤奈


8年前、日中関係は冷え込きっていた。不穏な情勢の中、日本に飛び込んだ1人の中国人女子高生がいた。

『えっ、中国人を受け入れるの。なんで。』否定的な友達の一言。8年前、国際交流基金による中国高校生長期招へい事業に参加し、我が家はホストファミリーとなった。日中関係は戦後最悪とまで言われ、中国人のマナーの悪さ等中国の負の側面も数多く報道されていた当時。中国に対する見方も否定的なものが多かった。ぼんやりとマスメディアの残像が目の奥に残っていたからだろうか。私は友達に何も言い返すことができなかった。

しかし、それを変えたのが彼女だった。日本のアニメと漫画にハマり、日本大好きな彼女。流暢な日本語に温厚かつ律儀で明るい性格故に気づけば彼女を中国人としてではなく我が家の新しいお姉ちゃんとして周囲も受け入れていった。『なんとなく』抱かれていた中国に対する負の感情。でも、それは知らないからだった。知らないから、周りの情報を鵜呑みにしているだけだったのだ。周囲の中国に対する見方も徐々に好意的になっていった。勿論、文化や価値観、風習等の違いにより些細な衝突や問題は生じた。しかし、彼女と真摯に向き合い、話し合い、互いを尊重し合うことで乗り越えることができた。マスメディアでは見ることのない、日中間の友情と友好関係が芽吹き始めていた。

それから1年。帰国前、彼女はこう言った。

『小さな喜びより大きな幸せを求めていた。でも、日本に来て考えが変わった。今を犠牲にしなくたっていい。やりたいことがあればやればいい。いつか幸せになるんじゃなくていつも幸せでいたい』と。中国では医者になるために彼女は名門進学校で寮生活をしていた。熾烈な受験戦争故、1年間受験勉強から離れることに不安を抱えつつ彼女は日本に来た。実際、日本に留学して中国の大学進学に向けた受験勉強は遅れてしまったかもしれない。けれども、それ以上に日本での高校生活には価値があり、毎日が楽しくて仕方がなかったという。そして、日本での学びを上記のように振り返ったのだった。この言葉は今、私の人生観にもなっている。8年前の自分はかつての彼女のように未来の自分のために全力投球していた。目の前のことを蔑ろにしていた。今よりももっと良い未来を掴むために。でも、今を大切にすることの重要性を彼女から教えてもらった。彼女のお陰で素直に自分自身と向き合い、今に全力を尽くせている。

そして、この言葉は今後の日中関係にも言えることなのではないか。領土問題、歴史、政治、外交等における様々な難題に直面している。これらは過去から現在に至る複雑な歴史的背景や思惑、感情等が絡み合い、混迷を極めている。無論、これらの解決は最重要事項である。しかし、もう少し『今現在』を両国が知り、向き合う必要があるのではないかと私は考える。中国は日本の『今』を。日本は中国の『現在』を。8年前の私のように隣国の真の『今』に無知なのだ。知らないからこそ負の感情が生じる。負の情報に踊らされる。だから、8年前の私たちのように『今』をお互いに『知る』のだ。知ることから相手を理解し、尊重することが始まる。今を大事にすることがより良い未来に繋がるのだ。

海を隔てた隣国。太古から互いに交流してきた。8年前の私と彼女は文化や風習、価値観の違いを1つずつ乗り越えていった。いつか冷え込んだ日中関係を改善するのではない。いつも互いを理解し、高め合えるアジアを牽引する両国であり続けるのだ。そのために相手を知ること、今を大切にすることが大事なのだ。そう、彼女が教えてくれた。今年、日中国交正常化50周年を迎える。まだ見ぬ中国。そんな中国の『今』をこの目で見て、知りたい。

 

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