中国の医療に憧れて

2022-10-26 10:38:16
脇田 真倫子

私が初めて中国に触れたのは高校1年生の夏だった。きっかけは当時通っていた大学受験予備校だった。「作文の一次審査・泊まりがけの二次審査セッションに合格した全国で30名の高校生を中国の短期留学に無料招待します」という企画だ。10年前当時、世間知らずだった私はなぜ欧米諸国ではなく中国?と思ったものだ。両親に相談したところ「何言ってるの、これからの時代を担っていくのは中国でしょう」と説得され応募を決めた。

無事に審査を通過し10日間中国の清華大学内での生活を経験した。現地で中国語の基礎を学び、清華大の学生たちと将来について英語で熱く語り合い交流を深めた。博物館見学や企業見学等を通じて最新技術を目の当たりにした私は「本当にこれからの時代を担っていくのは中国だ」と体感した。大手企業などでは世界各国から優秀な学者や研究者を招き、研究開発に非常に力を入れていた。中国で出会った人たちは学生も大人もみな熱かった。時には彼らの剣幕に圧倒されることもあった。情熱の国なのだ。

もう一度この国に来よう、そう決意した私は帰国後に医学部入学後も多忙ながら中国語の勉強を継続した。中国語検定やHSK受験にも挑戦した。幸い周りには中国からの留学生も数人おり、日本に居ながらも中国語から全く離れてしまうということは無かった。上海や香港に観光にも訪れ簡単な中国語で会話を試みたりもした。

現在晴れて医師となった私は近い将来必ずや中国に留学しようと考えている。中国は前述したように最先端の研究も盛んなのだが、同時に伝統を大切にしている国でもある。中国には「中医」と呼ばれる伝統医学が存在し、西洋医学とは全く異なる視点から患者を診察する。現代の西洋医学では採血検査、レントゲン・CTなど大掛かりな機械を使用した検査を行い取得したデータを元に診断をつけたり治療方針を検討したりする。私自身設備の整った大学病院で勤務しており、この方法で診療を行っている。対して中医薬学は身体を侵襲せず、「人間がもともと持っている自然治癒力を高める」ことにより治癒に導くというスタンスである。治療には薬草などの生薬を用いることが多く、日本の漢方も中医薬学が元になっている。私が考えるに、病気そのものを正確に診て治すのが西洋医学、人間の生活の質を高め心身ともに回復に導くのが中医である。

一方で最新の医療についてだが、中国はデジタル大国であり世界最大の人口を誇る国である。データを大量収集しやすいためAIを活用した医療の発展がめざましく、「次世代人工知能発展計画」という国家からのバックアップもあり、医療AI研究プラットホームを立ち上げている。特に人間の生の目からはどうしても見落としが生じやすい画像診断の分野に力を入れており、IT企業がリードして主に癌のスクリーニングや診断補助を行っている。また、最近の医療トピックとして欠かせないCOVID-19についてもAIで診断する技術を開発しており精度は96%とも言われている。人間が見落としの無いように注意を払いながらレントゲンやCTの画像を読影すると大変時間がかかってしまうものだが、中国のAIシステムでは1日に600人分もの画像を処理できてしまうそうだ。AIを用いたオンライン診療も普及してきており、先端医療も患者にとっても身近なものになりつつある。開発スピードもすさまじい。

中国は私が現地で体感したように情熱的・意欲的な国であり伝統医学を大切にし、先端医療も積極的に開発する、どちらにも強い国である。他国では古き良き医療、全く新しい医療の双方を学ぶことはなかなか難しいと思われるが中国ではそれが可能である。今度は医師として留学に訪れるのが私の夢である。

医師としての業務は多忙であり、休日も平均月に3回ほど、当直もあるため30時間を超える勤務があったりと自分の時間を作ることが難しい職業ではあるが志のために日々中国語学習に励みたい。

 

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