私と父と肖德俊

2022-10-26 11:37:41
藤浦 優歌

父が仕事で上海に行くことになった。決定したのは新型コロナウイルスの影響によって、国を行き来することが難しい時期である。これは頻繁に父と会うことができないということを意味していた。

しかし、現代には多くの便利なツールがある。休日にはビデオ通話をして、家族の時間を過ごすことができる。ビデオ越しに見た中国は私が想像するよりも何百倍も美しかった。毎日のように送られてくる写真のなかの料理は、日本で食べる中華料理とは見た目が全く違い、全てが新鮮だった。食べることが大好きな私は、中国へ行って本場の味を食べてみたいという思いが日に日に募っていった。

もっと中国について知りたい。そんな気持ちから今は中国の食事やメイク、ドラマ、音楽を調べて毎日のように見ている。

父は中国語が話せるわけではない。覚えたての単語を必死に使い、多くのジェスチャーを交えながら過ごしているそうだ。日本語を話せる中国人に教えてもらったと、自慢気に中国語を披露してくれることも増えた。現地にいる父を寂しく羨ましく思いながらも、父の中国での自慢話を待っている自分がいる。

突然だが、私には大好きな中国人のアイドルがいる。彼は肖德俊という。日本人や韓国人、アメリカ人にタイ人など多国籍なメンバーで構成されているNCTという韓国のグループの一人である。肖德俊は中国語に韓国語、英語を話す。韓国のアイドルグループだが、メンバー同士で多くの言語を駆使してそれぞれコミュニケーションをとっている姿は、初めて見た時、非常に印象的であった。

ここで私は気づいた。国同士、多くの歴史を抱えながら支え合い、ときには争っている。日本と中国の間には悪い印象を抱く人も多い。そんななかで、お互いを理解しあうために必要なものは国と国同士という考え方ではなく、人と人のつながりだと。小学校から多くのことを学ぶなかで、人と人のつながりが大切だということも学んできた。ただ、あまりにも大まかな内容で私にはピンときていなかった。父と肖德俊が何が大切なのかを見せてくれた。

SNSが普及して、現地に行かなくても情報が手に入る今、世界には偏見と誤解があふれていると感じる。父を、肖德俊を通して、国という一つのまとまりをいい意味でも悪い意味でも再認識できた。国それぞれにその土地や生活を反映した料理や文化、知恵がある。これらを継承していく姿勢は重要である。ただ、それ以前に一緒に生活している人間同士なのだ。

中国だけではなく、日本人である私とつながりのある国は世界中に多くある。つながりがなくても自分自身の興味があれば、私自身の世界は大きく広がっていくのだといえる。

日本の隣の国、中国への関心。

今までは、隣の国という認識しかなかった。私の大切で大好きな二人を通して学んだ。父のように伝わる言葉が少なくても、肖德俊のようにそれぞれが理解できる部分を補い合うという方法でも、相手のことを思う気持ちがあれば、分かり合えるのだと。

 

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