現代の中国の真の姿を知ること

2023-10-23 17:10:00

阿部 央葉


私は、大学で「中国語圏の政治事情」という科目を受講した。

その授業で先生が、「現代の中国の学術技術レベルはとても高く、戦時中の中国のそれとはまったく違います。未だに、中国社会は劣っていて、日本はとても優れていると思っているのは、日本人だけですからね?」と言った。そのとき私は、日本が誇る技術力はとっくに中国に追いつかれ、もしくは追い越されていたのかというショックが半分、先生がそう思っているだけではないかという信じられない気持ちが半分といった、複雑な心境だった。この授業では、「日清戦争」(甲午戦争)から近代中国へ至るまでの出来事を学んだ。大学受験のために数学と物理ばかりを勉強してきた機械系学生の私にとって、社会主義革命からグローバル化、また、戦時中の日本の残虐な行いは衝撃的で、どれもとても興味深かった。

一昔前は、日本がアジアの中心だったが、今では、中国がアジアの中心となっているとも聞いた。中国は日本にとって最大の貿易相手国だが、中国にとっての日本は多くの貿易相手国のひとつでしかないという事実にも、かなりショックをうけた。私は大学卒業後、日本のメーカーに就職し、世界に通用する技術者になりたいと考えていたのに、その未来が揺らぐような気がした。ここでいう世界に通用する技術者とは、優れた技術と語学力をもち、世界中で売れる製品を生み出すエンジニアという意味だ。先生は、中国のエリートたちはとてつもなく優秀で、グローバル規模で働くならば、彼らに勝たなくてはいけないのだと言った。でも一体、そのエリートとはどんな人たちなのだろうか。

ここまで考えて、ふと思い出した。私が中学生のころ、近所に若い中国人の夫婦が引っ越してきた。旦那さんがマーさん、奥さんがリーさん、二人とも日本企業に勤めていて、日本語も上手だった。後から知ったのだが、リーさんは日本語だけでなく、英語も話せるそうだ。私の住んでいたのは田舎の住宅地で、私の祖父母をはじめ地域には高齢者が多い。祖父母は、昔の中国製品の値段や品質の記憶のまま、中国に対して悪いイメージを持っていて、それを聞いていた私も、漠然とした不安を感じていた。しかし、彼らは礼儀正しく、地域の取り決めやマナーをきちんと守って暮らしたので、次第に打ち解けていった。そのうち、我が家とその夫婦の間では、祖父が彼らの庭の剪定をしてあげたり、そのお礼に中国の料理やお菓子をもらったりという交流が始まり、彼らがまた引っ越していってしまうまで、それは続いた。私も、お裾分けついでに祖母が作った肉じゃがや、おでんを持ってリーさんの家へ遊びに行った記憶がある。リーさんはたまに、中国語や、中国の生活のことを教えてくれた。一番印象に残ったのは、リーさんの学生時代、学校が終わったら塾に行ってさらに勉強し、体育や部活動はなく、運動をほとんどしたことがないという話だ。運動不足は成長期によくないかもしれないが、リーさんは、私を含む一般的な日本人より、はるかにたくさん勉強してきたんだと知った。彼らはまさに、高い知識と技術を持って、生まれ育った国ではない土地でも存分に活躍するエリートだった。

冒頭の大学の先生のセリフに、私は反発を感じたが、半分はすぐに納得した。それは、このマーさんとリーさんとの交流があったからこそかもしれない。彼らは、私が聞いていた悪い中国のイメージとは全く異なっていた。彼らは、ご近所付き合いも避けて通れない日本の田舎でも、さらっと馴染む、高い語学力とコミュニケーション力、知識をもっていた。私も彼らのように、世界に通用する技術者になれるだろうか。そのためには、過去のイメージにとらわれず、日本や自分自身の現状、中国や他の技術者の優秀さを知ることが必要だ。そして、悪いイメージの中国ではなく、直接的な関わりから、自分にとっての中国の真の姿を見つけていきたい。


 

人民中国  2023年10月25日


 

 

 

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