映画に見る中国の不易流行

2023-10-23 17:22:00

小松 由依

 

 

この数年で中国のエンターテインメント、殊にアニメーションを目にする機会が増えた。今までは日本のアニメが中国へ渡っているイメージだったが、最近では逆に中国のアニメが日本へ入ってきて、さらに日本語の吹替版が制作されているケースも多い。ショートアニメから長編作品まで多岐に渡っている。

私が中国という国に対してずっと抱いてきたのは、パワフルで、少しノスタルジックな雰囲気もあるというイメージだ。これは幼少より親しんできた横浜中華街の影響が強い。異国情緒溢れる街並みの中で客を呼び込む快活な店員たちと、細やかな刺繍が施された色鮮やかな小物やチャイナドレス。

それから十年以上経ってから、私は短期留学のため初めて中国を訪れた。今まで抱いていたイメージに加わったのは、新しくて便利なものは積極的に取り入れるという、ポジティブな順応性だった。伝統的な胡同風の門構えの店頭では、老若男女問わずスマホを片手にコード決済で支払いをしていた。伝統的なものと革新的なものが融合している、その何ともちぐはぐな風景が面白くもあり、現代中国を象徴しているようで印象的だった。

これらのイメージは、中国のアニメ作品を観た時にも感じられた。最先端のアニメーション技術を駆使しながら、中国の伝統的なモチーフを扱い、観る人に元気を与えるような力強い作品が日本にやってきた。中でも、特に私が気に入っている長編作品を二つ例に挙げたい。

まずは「雄獅少年 少年とそらに舞う獅子」である。主人公が仲間と共に獅子舞の全国大会を目指すスポーツコメディと見せかけ、都市と農村の貧富の差や出稼ぎ労働の絶えない実態をも描き出している衝撃的な一面もある。そして何と言ってもアニメーションが圧巻だ。3DCGアニメーション技術を駆使しながらも、中国の水墨画風のアニメーションも混じる。写真かと思うほど美しい農村風景と、スクリーンいっぱいを縦横無尽に動き回る獅子たち。瞬きをしたり口を開けたりする獅子頭、また踊り手の手足の細かな動きは、実写ではないかと見紛うほどリアルだった。獅子舞だけではなくストーリーのラストも、ただのハッピーエンドで終わらずにまた日常に戻り生活は続くことを示唆しており、それもまたリアルであった。夢のような出来事のあとでも、再び日常はやってきて、人々の生活は続いていくのである。

もう一つは、西安にある兵馬俑から着想を得たファンタジー、「兵馬俑の城」である。舞台は兵馬俑たちが暮らす地下世界であり、私はまずこの発想に感嘆した。彼らは人間のように地下に街をつくり、生活をしている。もちろん彼らは土でできた焼き物であるので、ヒビが入ったり割れたりする。兵馬俑には序列があり、身分は一生変わることはなく、どれだけ望んでも労働者が兵士になることはできない。だが、一見不可能にも見えるその状況を、自らの力で主人公は変えていこうとする。古代の兵馬俑をモチーフにしながらも、自分の生き方は自分で決め、道なき道を切り拓いていくこともできるという、現代を生きる私たちを励ますメッセージをくれる作品だ。

伝統と革新という相反するものの組み合わせ、さらに現代社会の状況をも映し出し、観る人に訴えかけるようなその力強さに私は感銘を受けた。何度でも観たいと思い、上映館を調べては足を運んだ。

日中間のエンターテインメントの交流の隆盛はとどまるところを知らず、勢いを増しているように思う。アニメーション作品もどんどん制作され、その情報を日本にいながらネット上で容易に得ることができる。私が今一番楽しみにしているのは、「長安三万里」という作品だ。今度は唐詩をテーマにしたものだという。詩や詩人から一体どんな作品が生まれたのだろうか。日本で観ることができる機会があることを切に願う。


 

人民中国  2023年10月25日


 

 

 

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