私の役割

2023-10-23 17:34:00

白方 晏


私は父の仕事の関係で中国上海で生まれました。2歳の頃までなので記憶には残っていませんがそのルーツを大切にしたいという思いやその後何度か中国に旅行に行った事で小学校時代から中国に興味を持つ様になりました。辞書を片手に独学で中国語を学び、小、中、高等学校で中国語スピーチコンテストに数回出場し大学は外国語学部中国語専攻に進学しました。四声の高低が難しく何度も壁にぶつかりましたが、一つずつ乗り越えコンテストに出場するたび、難しさ以上に中国語の音の美しさにどんどん惹かれていきました。これらの経験を活かし大学1年生の夏休み、私は桜美林大学主催の中国語カラオケ大会に参加しました。同済大学嘉興キャンパスで行われた決勝大会で私は北京オリンピックの主題歌『我和你』を披露しました。手拍子や一緒に口ずさんでくれた観客に背中を押され、歌詞の「在北京」という箇所を「在嘉」に変えて歌いました。歓声が湧き起こった時「我和你心心同住地球村,梦想千里行,永一家人」という歌詞の通り皆、同じ地球の一員なんだと胸が熱くなりました。この曲はデュエット曲ですが今回上海では2人のパートを1人で歌いました。歌い終わった時私は「もし、私とデュエットしたい方がおられたら大会終了後私の所に来て下さい」と言い残し舞台を去りました。終了後、日本語を勉強している同済大学の学生が「ぜひ友達になって欲しい」「次回は一緒に歌いましょう」と声をかけてくれました。同済大学の寮ではこの曲を含め彼女達が紹介してくれた周杰倫、温嵐のデュエット曲《屋頂》を一緒に歌いました。時が経つのをわすれるくらいとても楽しい時間を過ごしました。
 今、私は中国語の勉強に歌はとても有効な手段だと感じています。第一に歌は中国語に必要不可欠な声調に左右されません。歌詞をメロディに合わせる為、日本人とって難しいそり舌音や有気音の練習も自然と身につきます。また歌は言語だけでなく中国の自然や人々の暮らし、歴史も感じることができます。例えば《茉莉花》の曲は江南地方の豊かな水郷を感じさせてくれ、《青蔵高原》の曲は雄大な草原で生活している人々を連想させます。また阿蘭の《赤壁》や林俊傑の《曹操》は悠久な歴史の世界へと導いてくれます。それは授業で得ることのできない貴重な体験であると同時に異文化を理解する有効な手段であると感じています。
 中国の歌に魅了された私ですが卒業後の進路を考える時期に差し掛かった時、新型コロナウイルスが世界的に流行しました。私もやっとの思いで掴み取った中国への交換留学があろうことか出発1か月を目前に中止となりました。必死でやってきたことへの思いや楽しみにしていた海外生活が遠のいていく落胆は大きくその頃の私は寝ても覚めても嘆いてばかりいました。繰り返される感染状況のニュースや未知のウイルスに怯え街がマスク姿の人で溢れた時、私の気持ちにも少しずつ変化が現れ始めました。いつしか留学へのこだわりはほぼ消え医療現場のひっ迫した現状に釘付けとなりました。「中国語を勉強している自分に何かできることはないだろうか」それは同時に自分が置かれた場所を再認識する時間となり気持ちを見つめ直す絶好の機会となりました。思い起こせばコロナ流行前の日本は中国人の旅行者で観光地が潤い中には健康診断に訪れる人もいたではないか、コロナが終息した時にはそのような中国人をサポートできれば、と考えるようになりました。今、私は看護師と保健師を目指して勉強しています。将来、中国語を活かし、歌で感じた中国の自然や習慣を心に刻みながら数ある国々の中から日本を選び訪れくれる中国の人と関わる仕事に就きたいと考えています。



 

人民中国  2023年10月25日


 

 

 

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