二胡の花窓は世界の窓

2023-10-23 17:36:00

長谷川 愛


花窓あるいは漏窓とは、主に中国の庭園や古典建築に見られる、幾何学図形や動植物のかたちが文様として取り入れられた透かし窓のことを指している。典型的には建築物に見られるが、実は中国伝統楽器の二胡にも花窓がある。私と中国、そして世界の出会いは、この二胡の花窓をのぞきこんだ瞬間から始まった。

幼いころに、日本のテレビで中国伝統楽器バンドが活躍していた。初めて聞いたその音色が大人になっても頭から離れず、私は地域の公民館で行われている二胡サークルの門を叩いた。二胡を貸してもらい、初めて触ったとき、とても困惑したのを覚えている。二本の弦の間に弓が挟まっているではないか。「なにこれ、どうやって弾くの。こんな不思議な楽器、私弾けるの?」。思わず心の中でそう叫んだ。戸惑いながらも、二胡に触れることができた喜びに浸る余裕ができたとき、周囲のサークル参加者が抱く二胡を観察してみた。すると楽器によって、微妙に木の色が違ったり、頭頂部に馬の装飾が乗っていたりと、ひとつひとつの楽器に個性があっておもしろい。続いて楽器の前後左右を観察していたときだった。私は運命の花窓に出会ったのだ。楽器の背面、空気が通る胴筒に、私の出身地福岡県で有名な組子細工のような木の装飾が嵌め込まれている。なんて美しいのだろう。この美しい装飾の奥には何があるんだと思わず覗き込んだのを覚えている。実際は、二胡の花窓の奥は、空気の通り道なので、真っ暗な空洞であったのだが。 

冒頭でも触れたように、「花窓」は主に中国古典建築に見られる透かし窓のことを指す。私は二胡をきっかけに花窓を知った。どちらが先に誕生したのかはっきりわからないが、建築の中の花窓と伝統楽器である二胡の花窓は姿形がそっくりである。二胡の花窓を皮切りに、建築の花窓にも興味を持ち、私は中国の伝統文様や装飾、空間の間の取り方について調べるようになった。最近では、中国の若者の間でも、花窓のような中国古典的デザインが流行しているそうだ。古より日常の中に装飾美を取り入れ、生活をより豊かにしようとしてきた中国の人々の姿勢は、世代を渡って受け継がれているようだ。

こうして中国文化に見事にはまった私は、大学院に進学してから、たくさんの中国人留学生に巡り合った。授業で中国人留学生を見かけては拙い中国語で話しかけ、中国文化が大好きで、中国語の勉強をしていることをアピールして、知り合いになった。さらに、中国人の友達を増やすために、学生のほとんどが留学生である授業に参加するようになった。その授業では、中国人留学生たちが、語学力、コミュニケーションスキルや自分の専門知識を活かして、グループを引っ張るリーダーとして活躍していた。彼らとチームで活動するにつれ、私は言いたいことを言葉に出して相手に伝えることができるようになり、自分自身の性格が明るくなったように感じ、大学院生活が楽しくなった。さらに、留学生が多い授業では、否応なく中国人以外にも多くの留学生と友人になることができた。二胡の花窓をのぞきこんだあの瞬間から、私の世界は大きく広がったのだ。花窓は世界へとつながる窓だった。留学に行ったこともなく、シャイで海外の人との交流に苦手意識を持っていた私が、今では、学部の国際交流ウェブサイトに記事を連載したり、留学生イベントを企画する委員会の一員として活動している。

中国古典建築に見られる花窓は、窓の奥にある自然や人とのつながりを感じ取ることを可能にしている。私は、花窓は、人と人、人と自然とのつながりを重んじる中国の人々の心構えがあったからこそ生まれたのではないかと考えている。私も、花窓をきっかけに知り合った多くの人々とのつながりを大切にしていきたいと思う。そして、花窓の奥の世界をもっともっと広げたい。


 

人民中国  2023年10月25日


 

 

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