近未来都市上海での学び

2023-10-23 17:37:00

村上 千賀子


“激変した上海”で変わらないものを見つけた。

2019年の初めに上海を訪れた。当時私は、流通向けのDXサービスの企画営業に携わっていた。日本ではテクノロジーによる人手不足解消や機会の最大化に期待が集まる一方で、実用化にはほど遠く、どのように取り組むべきか悩み、行き詰まりを感じていた。訪問の目的は、日本より先にテクノロジーの発展で近未来の都市に発展した上海のライフスタイルを視察し、成功事例と言われるサービスを調査することであった。

上海から学ぶというのは意外だった。10年前に見た、渋滞する二人乗りバイクや、エアコンの室外機と鉄格子がついた古いビルが私の上海のイメージの全てであり、テクノロジーとは程遠い場所に思えたからだ。しかし、上海の景色は激変していた。たった10年の変化だとは信じられなかった。人々の生活も大きく変わったのだろうと想像しながら、調査を始めた。

旅行者は登録できないサービスが多かったので、現地の知り合いに頼んで使っているところを見せてもらった。タクシーの代わりに配車アプリで車を呼び、盒馬鮮生に行って、そこでも同様にアプリを使って買い物をし、フードコートで食べた。瑞幸珈琲では店員さんに現金を渡して、代わりにコーヒーをモバイルオーダーしてもらった。

日本では実用化されていない仕組みばかりで新鮮だった。うまく機能するか半信半疑だったが、実際に体験するとその仕組みはごくシンプルであることがわかった。注文や決済など特定の部分だけをデジタル化して、接客やその他のオペレーションは人がサポートしてサービス全体が円滑に利用できるようなっていた。

上海の人はとても臨機応変で優しかった。ハイテクなサービスを使いこなしながらも、リラックスしていて人間味に溢れていた。テクノロジーが浸透していても、彼らの生活や価値観は10年前と比べてそこまで変わっていないことに気付いた。たった数日間の滞在だったが、旅を終える頃には、初日に感じた“激変した上海”の印象は違うものになっていた。

上海での体験が、思い込みに気づかせてくれた

滞在中、最も印象的だったのは、サービスそのものではなく、その過程で出会った人々とその振る舞い方だった。私は日本で、テクノロジーの意義を誤解していたことに気が付いた。理想的なテクノロジーの実装は、人々の生活様式に大きな変化をもたらすものと考えていたが、それは思い込みだった。いつもの生活の中にあるシンプルなステップを自動化・デジタル化するためにテクノロジーを使うのが理想的だと気付き、進め方のアイデアが浮かぶようになった。それは、私にとっては霧が晴れるような体験だった。

無人店舗のテスト店舗の見学でも意識の違いに気付かされた。やってみないと分からない、ダメならやめればいいぐらいの気軽さで、シンプルな検証がされていた。失敗を恐れないどころか、むしろ学びとしてポジティブにとらえるような価値観が社会に浸透していると感じた。挑戦することへの心理的抵抗が大きく、失敗をリスクとして避けたがる日本とは真逆の印象を受けた。軽やかに試行錯誤していった結果がこの上海の発展の秘訣だと感じた。

中国と日本、似ている部分が多いからこそ、違う部分から学べる。

中国と日本では、古くからの文化に根ざした共通の価値観がある一方で、政治や経済などによる現代社会における価値観は異なっていると感じた。似ている部分もあるからこそ、違う部分を見つけると新鮮に感じ、それまで当たり前だと思っていたことに疑問を持てるようになる。お互いの姿から刺激を与え合って学べる良い関係だと思った。

この体験がきっかけでもっと中国のことを知りたいと思うようになった。そして、中国語の勉強を始めた。中国を知れば知るほど、日本に対しても発見がある。これからも中国から学び、それを活かしていきたい。

 

 

 

人民中国  2023年10月25日


 

 

 

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