恩返しの第一歩

2023-10-23 17:43:00

真野 朝子


「あなたは遠くから来たのだから私におごらせて!」これは上海で再会した中国の友達が何度も私に言った言葉だ。彼女とはアメリカの留学中に出会い、お互い慣れない土地での暮らしに苦労しながら励まし合った「戦友」だ。彼女やそのルームメイト達から老干や中国式の朝食を教えてもらい、温かい思い出は留学後の私の中国語学習への意欲となった。

社会人になる前に、上海に3日だけ遊びに行き、私はご飯でも彼女と一緒に一回食べられたらいいなと思っていたが、なんと彼女は3日間ずっと上海を案内してくれた。そしていつも冒頭の言葉で私に払わせようとしなかった。各地の入念な下調べなど、彼女の一生懸命な姿に感動し、私もいつか日本で彼女を精一杯もてなしたいと思った。

私は20194月に小学校の教員となり、毎日必死だった1年目に未曾有のことが起こった。20201月初め、新型のウイルスが中国で流行りだしたと聞き、友達のWeChatや中国のネットニュースを見ると、大変なことになっていた。私にできることはないかと考え、当時日本の薬局にはまだマスクがあったので、マスクを3箱とお菓子を彼女に郵送した。どうにか無事に届き、とても喜んでもらえて、少しは助けになったかなと安心した。

しかし翌月2月には、日本にもコロナが拡がり、社会生活に規制がかかりだした。小学校の子どもたちの生活も例外ではなく、放課後の遊び場が次々と閉鎖された。そのことを当時担任していた子どもたちに伝えると、ブーイングだけでなく、「中国のせいだ!ふざけんな!」とわめきだした。普段、子どもたちの前で感情的にならないようにしていた私だが、その言葉だけは許せなかった。あんなに心が広くて、義理堅い人たちのことを知って、言っているのか?誰がコロナになりたくてなるというのか。苦しくて、悔しいのは私達だけじゃない、中国の人たちだって同じだろう!涙が出そうだった。そのことを子どもたちに伝えると、少なくとも私の前で中国のことを悪く言う子どもはいなくなった。

新型コロナウイルス感染症を経て、私は子どもたちにメディアで報道される以外の中国の良さや、日本との文化的なつながりを知ってもらいたいと強く思うようになった。また、仕事でも変化があり、大学で英語を専攻していたこともあって、小学校の英語専門の教師になった。今は、中国にまつわる内容を取り入れた授業を日々行っている。例えば、5年生の「行きたい国」の英語表現を教える時には、まず世界各国を紹介し、興味をもつ機会を設ける。その際、中国の時は、万里の長城や故宮だけでなく、二胡の演奏や変面ショーの動画も見せる。変面ショーは特に人気で、お面をすばやく取り換える秘密を子ども同士で議論したり、学期末の行きたい国のスピーチで、中国に行きたい理由にする子どももいるほどだ。

他にも、3年生の「これは何でしょう?”What’s this?”」では、簡体字で書かれたスポーツ(羽毛球,排球,棒球など)のクイズを出し、子どもたちが英語でスポーツ名を答える活動をしている。知っている漢字から、意味を推測するのが楽しいようで、中国の簡体字と日本の漢字の違いに興味津々だ。次世代を担う子どもたちが、隣国のことをよく知り、将来の良好な日中関係を築く原動力に少しでもなれたら嬉しい。

ようやくコロナが終息し、徐々に中国からの観光客も戻ってくるようだ。彼女はまだ日本に来られないそうだが、街で会った中国の方には中国語で話しかけるなど、できる限りもてなしたい。これからも小学校の授業や、街中での出会いなど、自分のできることで、中国と日本の絆づくりに貢献していきたい。それが彼女に恩返しする第一歩だと信じて。

 

 

人民中国  2023年10月25日


 

 

 

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