ひとりぼっちじゃないよ

2023-10-23 17:48:00

前田 瑞季


17歳の冬、生まれて初めて北京を訪れた。万里の長城に立って、ツンとした涼しい風を全身で浴びた感覚を、今でも昨日のことのように覚えている。滞在中に経験したこと全てが新鮮で、魅力的に見えたのだ。この時、私は中国に恋をした。

帰国後も頻繁に中国料理を食べたり、川劇の変面を動画で見たりするようになった。日本にいながら中国という国を身近に感じることが当たり前になっていた。

しかし私は徐々に、中国が好きという気持ちを隠すようになった。生きづらさを感じるようになったからだ。日本には中国に対して否定的な層が一定数存在している。程度は違えど、私の身近な人たちも例外ではなかった。中国語の歌を聴いているだけで嫌な顔をされることもあった。中国に対して好意的なことを言えば、耳を塞ぎたくなるような意見が倍になって返ってくる。彼らの多くは「何となく」中国に良いイメージを持てないと言っていたが、この「何となく」で私の心は何度も傷ついてきたのだ。

ある日、父親とテレビを観ていた時に中国に関するニュースが流れてきた。すると父親が私に「お前は中国が好きか」と聞いてきた。父親は以前から中国に対してあまり良いイメージを持っていなかったから、とっさに私は「別に興味ない」と答えてしまった。言い争いをしたくなかったから、私は逃げたのだ。その後自室に戻ると私は泣いていた。父親に対しても自分自身に対しても嘘をついてしまったからだ。悔しい、悲しい、辛い。色々な感情が駆け巡った。

なぜ日本には中国に対して偏見の目を向ける人が多いのか。在日中国人や中国が好きな人が肩身の狭い思いをしなければならないのか。その原因は多くの日本人の中国観が曖昧な形にとどまってしまっていることではないかと考えた。メディアで見る中国は一つの側面に過ぎないからこそ、他の手段で中国を多角的に知らなければならない。それならば私がその手段の一つになろうと決心した。

まずは中国が好きという気持ちを隠すことをやめた。そして独学で中国語の世界へ飛び込んだ。家族からは否定も肯定もされなかったが、応援されているとは言えなかった。しかし私に諦めるという選択肢はなかった。中国語に苦手意識を持たないために、自分に合った方法を模索した。焦らずに毎日必ず中国語に触れることを心がけた。

日に日に高まる向上心を抑えることができなくなり、四川大学のオンライン留学に参加することにした。勢いよく申し込みをしたものの、入学式の直前まで不安に押しつぶされそうだった。

しかし過剰な心配とは裏腹に、私が進んだ先は優しい光で溢れていた。中国語の授業で分からないことがあっても、先生たちは熱心に教えてくださった。同じ間違いをしても、根気強く支えてくださった。クラスメイトたちは中国に対して偏見を持っておらず、彼らと過ごす時間は、私が私らしく生きることを肯定してくれた。孤独だと思っていた私にとって心強い仲間ができたのだ。そんな充実した私の初めての中国への留学は、名残惜しいほどあっという間に最終日をむかえた。

オンライン留学を終えた翌日は私の誕生日だった。そんなめでたい日に、先生から卒業試験でクラスの一位になったという連絡があった。その結果を両親は笑顔で喜んでくれ、応援すると言ってくれた。私の中国に対する決心を認めてくれたのだ。この時、私の頬を雫が伝っていく感覚があった。自室でひとりぼっちで泣いていた時とは違う、喜びの涙だった。

この作文を書いている最中、また日中関係が緊迫してきた。心がざわつかないと言えば嘘になるが、私はもう一人じゃない。オンライン留学での経験や支え合える仲間、そして両親の理解のおかげで、私は私らしく胸を張って生きていけるのだ。だからもしも今の状況に心を痛めている人がいるならば、私はそんな人の仲間になりたい。


 

 

人民中国  2023年10月25日


 

 

 

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