中国駐大阪総領事館主催の新疆ツアーに参加して

2024-01-25 16:03:00

20239月、中華人民共和国駐大阪総領事館主催による日本市民新疆ツアー第二陣が行われた。今回の訪問団は、日本各地から集まった17人のメンバーで構成されており、全員自費で参加した。一行は89日でウルムチやトルファン(吐魯番)、クチャ(庫車)、アクス(阿克蘇)、カシュガル(喀什)を訪れ、深い印象を残した。メンバーの一人で大阪府日中友好協会会員の坪井道明さんは帰国後、今回の旅で受けた感想を長文で書いた。ここで一部抜粋して紹介する。 

                                

 

文=坪井道明 

  

皆さんは、「新疆」または「ウイグル」というワードを耳にして、どんなことを思い浮かべるでしょうか? 

多くの日本側メディアによる情報は、偏向性が強く、マスメディアとしての使命であるはずの客観的、公平性を保っていない内容については、正直なところ、心を痛めています。 

昨年9月、中華人民共和国駐大阪総領事館(以下「総領事館」と略記)主催による日本市民新疆ツアー第二陣メンバーとして参加する機会を頂き、「リアルな新疆」を日本の方々に広めたいと思っています。 

それでは、新疆ツアーに参加して感じたことなどを、ジャンル別に紹介していきます。 

  

新疆ウイグル自治区の概要 

面積は、約166万㎡もあり、この広さを関西で当てはめると関西広域連合を構成する府県(大阪府「大阪市と堺市を含む」、京都府「京都市を含む」、兵庫県「神戸市を含む」、奈良県、和歌山県、滋賀県、鳥取県、徳島県)の合計面積の約48倍もの広さがあります。人口は、約2600万人で、同じく関西広域連合の構成府県の合計人口より約500万も多い。 

中国の主たる民族は、「漢族」であり、それに少数民族を足すと全部で56の民族。その56の民族すべてが、新疆ウイグル自治区の中で生活をしていることもあり、新疆は、いわば「中国の縮図」としても知られています。そしてよく知られているキャッチコピーが「不到新疆、不知中国之大」(新疆へ行かなければ、中国の大きさが分からない)のである。 

  

新疆各地の簡略的景観と都市経済活動について 

新疆は非常に大きいため、大変風光明媚な景色が、四季の移り変わりによって様々な表情を魅せてくれ、その素晴らしい景観を実際に見るために、写真家や登山家をはじめ、国内外から多くの方が新疆を訪れるようになり、また習近平国家主席が注力してきた脱貧困政策の成果もあって、それまで格差が大きかった農村地域でさえも、近未来的な機器の導入(例えば、ドローンなど)により効率的、また人間が立入り困難な崖淵や、手の届きにくい箇所にも、これらの機器を活用することで管理ができるようになり、そういった手法で収入が格段に向上したことにより、投資物件を取得して副収入を得られるようになったり、自家用車を購入できるようになったことで気軽に移動ができるようになったりと、日本の低所得者層の収入を凌駕するくらいに経済循環が潤沢化していることを、綿花農園や製糸工場での見学によって知ることが出来た。また、国内外からの観光客ももてなすため、「国際観光都市・新疆」の名を轟かせるべく、伝統産業や美酒・美食・美舞・美景によって訪問者を魅了し、リピーターの獲得に繋げている。 

高規格道路をはじめ、車が走りやすいアスファルトの整備も急ピッチで進み、高層住宅街の生活インフラ整備も凄まじい伸びを感じた。肌感覚ではあるが、私が「北京市の未来都市計画を都市文化経済学の観点から考察する」という内容で大学の卒業論文を書いた1999年以降、その取材先で仲良くなった女性を訪ねるために、大学を卒業してからも頻繁に北京を訪れていた過去があって、その時の北京の都市経済が急速に伸び始めていた頃の様子に似ていると感じたからである。 

我々のツアーでは幸運にもトルファンからクチャまでの6時間という長距離(約650km/東京姫路間に相当)を列車「T9526/ウルムチ~カシュガル間で484.5元(A寝台)」で移動できた。 

車窓からの風景を眺めていた中では、タクラマカン砂漠をひた西へ走る中で、時々交差したのが、高規格道路(片側3車線の6車線アスファルト整備道路)と建設が進む高速鉄道の敷設工事の様子、および緑化推進の苗木の植樹と大量の風力発電装置だった。また途中の停車駅では駅前周辺の整備が進んでおり、居住も平屋トタン屋根土壁のようなモノでなく、25階以上の高層マンション群だった。ここもあと数年後にはかなり発展するのかなあと感じた。 

  

旅程の後半に訪れた「カシュガル」という都市について 

新疆ウイグル自治区の西側であり、また中国の西側でもあるカシュガル地区の概要を簡略的に紹介する。 

居住人口については、2022年の統計によると、約450万人である。この人数は、202311月の大阪市の約270万と堺市の約80万の合計より多い大都市。 

カシュガルの位置関係は、北緯3928分、東経7559分であり、日本では岩手県中尊寺や秋田県象潟市、アメリカではメリーランド州ボルチモアが同じ北緯39度帯に属す。ちなみに、大阪は北緯34度帯に属す。 

カシュガルに関する経済データを国家統計局喀什(カシュガル)調査隊が202356日に公布した情報 

http://www.tjcn.org/tjgb/31xj/37582.html)によると、2022年のGDPは、1368.56億元(対日本円レートを20で換算すると、27371.2億円)でコロナ期の2021年度よりも3.1%上昇。CPIについては、対前年比2.1%の上昇。 

対外経済のジャンルでは、輸出入貿易総額は、493.13億元(輸出が477.66億元で対前年比111.3%の上昇。輸入は15.47億元で200.4%の上昇)で前年比113.3%の上昇。 

税収の面では、35.81億元(7200億円に相当し、大阪市の7860億円より些か低い少ない)。 

このように見ても、カシュガルの都市経済が如何に成長段階であることが分かる。 

(ほかにも詳しい内容を知りたい方は、上記のURLからご参照ください) 

  

カシュガルは、堺の刃物や、東大阪・八尾の工場地域のようなモノ作りをしている都市で、(どう)真鍮(しんちゅう)細工(さいく)などのデモンストレーションをしていて販売をしているエリアもあれば、農作物の店頭販売を行っていたり、お土産品や特産物の販売による商人の呼びかける声が響き渡っていたり、モスクエリアでは宗教系の活動のほか、カシュガル古城では毎朝特定の時間に民族衣装をまとった演者が、伝統芸能を披露し、その光景を見るために、異常なほどの鑑賞客が見えて、街全体に大変活気があったことが印象深い。 

 

しかし、ここは以前、非常に貧困地帯でもあり、また地殻活動が発生すれば、すぐに崩壊してしまうような貧素な家屋の造りだし、雨量が多いと水はけが悪くて不便な移動を強いられていたようだった。脱貧困政策が進められ、それを一気に強固かつ後世に残していける美しい家屋へと軒並み改良し、そこで暮らしていた多くの家族に笑顔をもたらし、生き甲斐を与えて、観光都市として国内外から来る観光客をもてなし、その売り上げなどで生活も大きく改善された。 

都市交通の面に於いては、最近主流のBRT方式のバス輸送システムも採用されている。特定時間帯では独立した車線レーンを進むことができ、定時性の確保がなされている。また、電気バスや連接バスも走っていて、これらは中国政府だけでなく、他の地域(たとえば、上海・深圳・山東省など)が直接投資をして新疆を支援する「援疆」政策もあって、急速に発展を遂げていった。このような都市創生の政策手法は日本で見られないのが特徴的だ。

夜もレストランが軒を連ねるエリアでは、子どもを連れながら大人たちは酒を飲み交わしており、ウイグル族のグループ、漢民族のグループというふうに民族別で盛り上がっているかといったらそうではなく、やはり子ども同士仲がいい家族では、異種民族であっても、意思疎通のために、中国の標準語を話しながら、ウイグル料理に地ビールを嗜みながら交流を深めている実際に光景をみたら、日本側メディアで紹介している「民族弾圧」や「漢語の強制使用」なんてモノは存在しないということも自ずと明らかだ。 

 また、決められたスケジュールを終えてホテルに戻った後、ホテル周辺を散策した際に、駐車している車の中で、ブランド高級車も比較的多く散見され、ヨーロッパ系だけでなく、日系メーカーの車も多数見かけることがあり、中国国内で日本車を手にするのは、富裕層の居住が多いことを示している。さらに料理で盛り上がっているグループもあれば、音楽を伴いながら踊りをしていりグループも散見され、昼夜を問わず活気に満ち溢れていた街の様子から、カシュガルの数年後が大変楽しみに感じた。と同時に、カシュガルという都市文化や人々の様子から、仮に烏魯木斉(ウルムチ)を「関東っぽい」と譬えるなら、カシュガルは「関西っぽい」と譬えられるのではないかと直感した。だからこそ、関西とカシュガルの両地域で交流する機会が増えれば、地理的には5000キロ以上離れていても、心の距離は果てしなくゼロに近くなるだろうと心願している。 

ただ残念ながら、現在のところカシュガルと日本を直接結ぶ航空路線がないので、双方の交流が益々増えていくための開拓に携わりたいと思うようになり、仮想のフライトプランを立て、無理があるかを実際に航空路線の運航計画を担当している元の会社の同僚に提示した。 

  

また、今回の旅の中で、カシュガル第11小学校を訪れた。 

我々のような参観者がライブ授業を見学できる体制が整っているのか、外部者が来たことで緊張している雰囲気は微塵も感じられず、淡々と授業の話に耳を傾けていた。 

校庭では、サッカーやバスケットボールなどの球技のほか、室内での教室においては音楽、数学、英語の授業を行っていた。学生同士の会話は、多民族での共通用語として「普通話」である一方、英語に於いては、理解の深度を充実するため、英語のあとに普通話とウイグル語で意味を説明していて、決してウイグル語を使用してはならないという一部の日本側報道が虚偽であることを示してくれた。また、校舎にも多民族国家を形成する中華人民共和国としての共通理念を周知するために、漢字とウイグル語で掲示していた。                  

 

新疆と「一帯一路」について 

2023111日に、「『中国(新疆)自由貿易試験区総体方案』の印刷発布に関する国務院の通知 

(https://www.gov.cn/gongbao/2023/issue_10826/202311/content_6915821.html) が公開され、新疆自由貿易試験区(上海では浦東新区に設定されおり、外資系企業参入の促進や、さまざまな税制優遇がある)で、脱炭素化の取り組みが強調されている。 

中国は世界経済を牽引する責務として、国際的に関心が高まっている事象に積極的に協力していく姿勢が、この未来計画書からも垣間見える。 

また、新疆という地域が、中国の西側に位置しており、鉄路や道路で隣接国を通っていけば、陸路で欧州諸地域にも繋がる経済ベルトが誕生できる国際経済の活性化にも優れた政策の「一帯一路」。こういった地理的な優位点を踏まえて、烏魯木斉をメインとし、カシュガルにも試験区の一端を担う拠点を設けるようで、今後ますます増えても対応できるように国際空港の敷地拡大や、貨物駅のヤードを、試験区の近くに設けるなど、動線的にも無駄のないような配置が計画されている「攻め」の姿勢は、今の日本には参考にすべきだろうと考える。 

  

中国の「一帯一路」政策について、少し私見を述懐すると、日本と中国は陸続きではないため、あまり関心がない人が多数いるが、中国の新たな成長戦略を好意的に受け入れている方々や、大局的に、また計画を俯瞰視できる方々からすると、日本も中国の「一帯一路」構想に参入し、海運による障害を回避できるメリットと、鉄道輸送によって欧州までスピーディーに貨物輸送を提供しているレールウェイネットワークを活用することで、日本から航空輸送で欧州諸地域との貿易活動もローコスト化が実現できるメリットもある。                         

 

  

筆者 坪井道明  

1975年生まれ。阪神淡路大震災の直後に神戸市内の大学へ入学。 

都市文化経済学科を専攻し卒業。大学時代に知り合った中国からの留学生の優しい人柄によって、中国へ興味を持つ。独学で中国語を学び、カルチャースクール的なレッスンとして、盧思・相原茂・段文凝の中国語講座を受講。 

乗り物関連の仕事に長年携わりながら、NPO大阪府日中友好協会の会員に。 

SICPという個人事業を立ち上げ、都市交通に関連した政策意見や民間企業へ斬新なアイデアなどを提供している。 

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