中国が私に与えてくれたこと
阿部 千穂子
東京の街中で中国語が聞こえてくると私は耳をすませてみる。何か困っていそうだったら中国語で話しかけてみる。相手は驚いたように「你是中国人吗?」と聞いてきて、私は「我是一个爱中国的日本人」と答える。
人見知りの私だが、中国語を話すときは少しフレンドリーになれるのはなぜだろうか。きっと中国での生活の中で、多くの中国の方に出会い、学び、助けられてきたからだろう。
私が中国を意識するようになったのは大学生の時だ。父が広州に駐在していたため、夏休みを利用して父のもとに遊びに行った。現地の語学学校に通ったのだが、先生たちは私を妹のように可愛がってくれ、一緒に買い物に行ったり、家に招待してもらったりした。私は中国語を学ぶ面白さと中国の方の優しさを知った。
大学を卒業し、私は「テクノロジーの力で世の中を豊かにしたい」という思いでIT企業に入社をし、2018年から2年間、上海で仕事をすることになった。
●中国での日常生活のこと
現地での生活の中で一番驚いたのはスマホアプリの便利さだ。今では日本でもキャッシュレス決済が普及しているが、当時はまだ現金が多く使われていた。しかしながら中国では大都市でも田舎の町でも、老若男女が当たり前のようにスマホで買い物を楽しんでいた。また、支払いだけでなく、タクシーの配車・デリバリーサービスなど、生活に関わるほとんどのことがスマホ一つで完結でき、私は衝撃を受けた。
なぜこんなにも技術がすばらしく、さらに人々に受け入れられるサービスが作れるのだろうか?中国の方と一緒に仕事をする中で気づいたことがある。お客様にサービスを導入する際に「まずはトライアルをしよう」「皆の意見を聞き、何か問題があったら、すぐ改善しよう」といって、サービスを開始し、どんどんと良いものに変化させていったのだ。慎重に進める日本との違いを感じた。
実際に私が利用していたスマホアプリについても、導入当初は課題が多かったが、利用する人の意見を取り入れながら、改善を繰り返していったという。中国の新しいことを素早く受け入れ、柔軟に改善をしていける文化があるからこそ、技術発展が早く、老若男女、そして外国人の私までも簡単に便利な生活ができるサービスができたのだと感じた。
●中国旅行のこと
私は何度も中国国内旅行をしたのだが、広い国土故にその土地ごとに異なる街並み、食文化があり、世界旅行をしているかのようだった。
1度、中国の若者限定の団体旅行に参加した。初めて出会う20人ほどの中国の若者と1週間ほど甘粛に旅行をした。日本語を話せる人は一人もおらず、初めはとても不安だったのだが、そんな不安はすぐに吹き飛んだ。行動するときはいつも誰かが話しかけてくれ、私が困っているとすぐに助けてくれた。
1番印象に残っているのは、移動中の大型バスでカラオケをした時だ。私が中国の歌を歌うと皆が手拍子で盛り上がってくれ、そのあとに全員で日本のアニメの主題歌を歌ってくれたのだ。今でもその主題歌を聞くと、中国の友人たちの愛情深さを思い出し、涙が込み上げてくる。
中国での生活は、私の人生の中でかけがえのない経験であり、その後の生活に多くの変化と楽しみを与えてくれた。
帰国後は「中国のスマホ決済の便利さを日本でも広めたい」と感じ、スマホ決済サービス部門の営業となった。今はAI等の先端技術を取り扱い、世の中に広める部門に属している。
また、今でも週に1度中国語の教室に通っており、先生とは、最近あった話、中国の昔語、最新のAIや自動運転のニュースなど幅広い話題をおしゃべりし、まさに語学を通して中国文化や先端技術を学ぶことができている。
「中国と日本、どちらにも良い面も悪い面もあり、それを知ることが大事」これは先生がいつも言う言葉だ。これからも、中国の文化、技術、そして人を知ることで、私自身が成長し続けていきたいし、両国がともに成長し続けていくことを願う。