中国の友と共に成長
本間 丈太郎
「先生、その解説は納得がいきません。ゼロの概念として…」
教室内に響くこの言葉は、蘇くんが初めて僕に強烈な印象を与えた瞬間だった。彼は物事を率直に述べる性格で、授業中にその特徴が顕著に現れていた。先生の説明に疑問を感じると、彼は躊躇せず次々と質問を投げかけ、その結果、授業がたびたび中断することが多かった。クラスメイトの中には「また蘇が始めたな」とため息をつく者もいたが、蘇くんは全く気にしていないようだった。
そんな蘇くんに対して、最初は驚きや戸惑いがあったものの、次第にその強烈な印象に惹かれるようになった。ある日、思い切って彼に話しかけると、意外にもフレンドリーに接してくれた。彼との会話を重ねるうちに、彼のきつい言い方や正直さに戸惑うこともあった。例えば、「なぜお前は彼の間違いを明確に指摘しないんだ」と問い詰められた時には、笑ってお茶を濁す方が楽だと思う自分との違いを感じずにはいられなかった。
しかし、そんな彼の厳しい一面とは裏腹に、彼は誰よりも努力家だった。朝から晩まで勉強に励み、塾に通い、寝る時間を惜しんでまで知識を吸収しようとしていた。その努力を自分では満足していないようで、常に向上心を持ち続けていた。僕は感服せざるを得なかった。
蘇くんの行動や性格の背後には、中国人の彼の家族や文化が大きく影響していることを知った。蘇くんの家には家訓があり、それは「金はかけるもの」というものだった。彼の家族はお金をかけることを美徳とし、良いものに対して積極的に投資する考え方を持っていた。この考え方は中国全体に広く見られる特徴だそうだ。
中国では、教育や健康、芸術などに対して積極的にお金をかけることが多い。良い教育を受けるために高額な授業料を支払い、健康を維持するために高品質の医療サービスを利用する。これらは未来への投資と考えられ、自己の価値を高める手段と考えているそうだ。
一方で、日本では伝統的に「タンス預金」という言葉が示すように、現金を家に保管し、節約を重視し、お金をかけることに対して慎重な姿勢を持つことが多い。将来の不確定要素に備えて貯蓄を優先する傾向が強い。蘇くんの家族の家訓と中国の文化を知り、彼の性格や行動の背景が理解できた。
中学校で知り合った蘇くんの影響で、僕は高校で中国語の授業を選択することにした。中国語の文法は日本語と違って明確に伝えやすい言語だと知り、これも蘇くんの率直な性格の土台になったのかな、と考えるようになった。ある日、僕が四音の発音で苦労していると、蘇くんは口の動きと発音をゆっくり丁寧に説明する動画を作ってくれた。どうにもうまく発音できない僕はすぐに諦めそうになったが、彼は僕のことを諦めず、粘り強くサポートしてくれた。彼は自分のことのように、友人の僕を決して見放さずに、僕の向上を支えてくれた。
蘇くんとの関わりは、僕に多くのことを教えてくれた。彼の率直さは時に厳しく感じられることもあったが、その裏には真摯な思いと信念があった。彼の言動から、中国の文化や価値観を学ぶことで、自分自身の視野が広がったのだ。彼の努力家な姿勢を見ることで、僕も自分の目標に向かって努力することの大切さを再認識した。
さらに、彼との付き合いを通じて、日本と中国の文化の違いについても深く考えるようになった。お金に対する価値観や使い方、家族や友人との関係性など、多くの面で違いがあることに気づかされた。それは決して一方が優れているということではなく、異なる背景や歴史が作り上げた価値観の違いであることを理解した。
彼の存在は、僕にとって大きな刺激となり、自分自身の価値観や行動にも良い影響を与えてくれた。彼との会話を通じて得た知識や経験は、僕の人生において貴重な財産となっている。今後も彼との交流を続けることで、さらに多くのことを学び、自分自身の成長を追求していきたいと思う。