文化で手を取り合う未来
小森 龍太郎
僕には中国人の親友がいた。僕は中国語を話せるわけではなく、彼女も日本語があまり得意ではなかったので、コミュニケーションは英語で行っていた。彼女はいつも笑顔で、聞き上手だった。
ある日突然、一緒に書道をしよう、という話になった。その日、夏の太陽が照り付ける縁側で、僕達はひたすら字を書いていた。
最初はお互い好きな熟語を書き、見せ合った。最初の彼女が書いた熟語は「四海皆兄弟」だった。素敵な人だ。僕は少しかっこつけて「百花繚乱」と書いた。今思うと少し恥ずかしいチョイスだった。意味を聞かれてもうまく説明できず、君みたいな人を表す言葉を書いたんだ、と投げやりに言った。日本語だからばれないと思ったが、冷静に考えてみたら漢字の意味で何となく分かってしまうと気づき赤面。彼女は小悪魔的に笑っていたようにも見えた。その笑顔に、また惹かれてしまっていたのは内緒だ。
そのあともたくさんの字を書き、それらについて会話をした。お互いの名前の由来だったり、中国独自の漢字についてだったり、日本のひらがなについてだったり。僕達は書道という文化を通して会話をしていた。互いの文化を尊重し、自らの文化に誇りをもって知ってもらおうとする、その空間がとても心地よかった。
僕は模擬国連という競技で中国として戦って以来、中国のことが大好きになった。改めて日本の文化・社会は中国とのつながりであふれている。
僕は中国史についてもとても興味があり、始皇帝の時代、三国志、そして近代史が特に好きだ。原泰久先生の「キングダム」は至高の名作で、何度も読んで影響を受けている。文化的に見ても、中国史を日本が誇る文化である漫画で描き、大成功を収めている。日本と中国の文化的な架け橋になれる力を持っていると思う。
また、僕は中国のボードゲームが大好きだ。中国といえばやっぱり麻雀だろうか。麻雀も日本でとてもポピュラーだし、最近は「雀魂」という麻雀ゲームが日本で大流行している。また、僕は現在将棋に関して色々な研究アプローチを行っていて、「象棋」についても興味があり、実際に論文を書いている。囲碁も古代中国に起源があると知り、僕はボードゲームから中国の壮大な歴史と文化を体感し、その魅力の虜になっている。
現在、世界は全ての国が協力できている状況ではない。この現状は、国籍での人間の差別化の意識につながってしまっている。「~人は~だ」、日本でもたまに聞こえてきてしまう。国が敵対している事実だけで仲良くできない人たちが、沢山いる。留学でも、そんな悲惨な事実を体感した。
だけど、人と人は繋がれるはずだ。互いの国にどんな背景があっても、それを無視して一人の人間として接すればいいだけ。そんな簡単なことができない人達を実際に見ると、本当に悲しい気持ちになってしまう。
あの夏、僕が経験したような、互いを尊重し合えるコミュニケーションが生まれる、理想の空間。世界中の人々がそれを作り出せる材料を持っている。それが文化だ。
たったひとつでもいい、共通の文化を通して同じ空間を共有すれば、僕達は国籍も、人種も、言語さえも超えて簡単に手を取り合えるはずだ。エンタメでも、娯楽でも、学問でも、スポーツでもいい。この作文コンクールだってその一つだ。文化が持つ力に頼って、一人一人の思いが詰まった「声」が、少しずつ大人数の「輪」になって広がっていく。「輪」は、新たな社会の「波」を生む。どんどん大きくなっていく「波」が、世界に、冷めてしまっている国同士の関係性に内側から影響を与えられるのではないだろうか。
この一学生の小さな「声」が誰かに届けばいいなと思う。「声」は大きくなって、やがて「波」になると信じている。
例えば、敵対していた国が同じ卓を囲み、談笑しながら麻雀を打つ未来。この作文はそんな未来に向かいたい僕なりの初めの第一歩だ。