漢詩から広がる幻想的な世界

2024-11-20 20:43:00

 西 梨花



夕殿蛍飛思悄然

弧灯挑尽未成眠

 

高校 3 年生のとき、通っていた習字教室で何度も何度もこの文字列を繰り返し筆で書いた。何を書くのかは先生が決めていて、生徒それぞれに漢文の言葉を選んでおり、私はこの言葉を選んでもらった。先生のお手本を見て、漢字やその並び方を見てなんて美しいのだろうと思った。お 手本をもらった時、自分が静かで立派な屋敷にいて、眠れないままただ窓から蛍が飛び回るのを 眺めているという情景が浮かんだからだ。綺麗で、でも少し寂し気なぼんやりとしたイメージを持ちながら字を練習した。筆の入り方、点の位置、字の形など、字を一文字一文字書くことに意識を集中させていくうちに、自分がどんな意味を持つ、何の言葉を書いているのか気になってきた。

調べてみると、白居易が詠んだ長恨歌という詩の一節だった。この詩は簡単に言うと、唐の玄宗が楊貴妃に入れ込んで国家を滅亡の危機にさらし、家来にその原因として楊貴妃を殺せと言 われて殺してしまい、玄宗は深く後悔して、道士に頼り魂を探すという物語である。上の一節は 楊貴妃を失った玄宗が家に帰ったが、どうしても彼女を思い出してしまい、またそこにいる人た ちからも時の流れを感じられ、切なく悲しい気持ちでいる様子を表現している。「夕方の宮殿に 蛍が飛んでいる。物思いは憂い悲しい。ひとつの明かりを灯し尽くしてもまだ眠れない。」というように

自分が書いていた文字が玄宗の悲痛な思いを想起させる、儚く悲しい情景だったことを知っ て、それが長い物語の一部分だったことにも驚いた。なぜ先生は私にこれを選んだのだろうと思 いながらも、筆を運ぶたびに自分の中で玄宗の様子と情景を思い浮かべた。自分の仕事を忘れる くらい愛していた、美しすぎる楊貴妃。亡くなった楊貴妃のことを四六時中考えてしまい沈みこ んでしまう、玄宗。家に帰ると出てきた元のままだったが、女官や役者たちの老いや白髪が気に なり、時が流れているのに自分だけが取り残されているような気持ちになってしまう。蛍が飛び 回り命を燃やしながら幻想的な風景を描くのを見て沈んでしまい、空が明るくなってきてもま だ眠りにつくことができない。そんな苦しくて悲しい思いを抱えていた玄宗に想いを馳せて字を書いた。国語の授業で漢文を習っていたとはいえ、こんなにも入り込んで情景を想像したことや漢文の美しさを感じたのはこれが初めてだった。

私は大学で第二言語に中国語を選び勉強している。漢詩は古典なので現在使われている中国 語とは異なると思うが、漢字の美しさや文字一文字から情景をイメージするおもしろさを感じ た。また授業で発音練習するときに先生やクラスメートの発音や例文の読み上げを聞いていて、 中国語は音や響きまでも綺麗だなと思った。中国語という美しい言語をもっと理解して、自分で使えるようになりたい。大学生活の中でその美しさを堪能しながら中国語を勉強したいと思った。また中国の西安には華清宮という玄宗が楊貴妃のために作った離宮が残っている。長恨歌では楊貴妃が温泉で美しい肌を洗っていた場面に登場する。長恨歌で描かれていた世界のように美しい絵画のような景観が広がっている。そんな長恨歌の舞台に実際に行ってみたい。詩の雰囲気を自分で体感しに行き、自分なりの長恨歌の世界を細かに想像して味わいたい。知識や思い入れのある場所に行くのは、何も知らないで旅行に行くよりも何倍も楽しいと思う。西安には歴史がたくさんあり、歴史スポットも多いことが調べていて分かった。壮大で迫力のあるスポットや、少し知っているという場所があり、どんな場所なのか、何があったのか背景知識を踏まえた上で訪れてみたいと思った。中国語の学習だけでなく、中国文化や歴史など自分の興味があることもどんどん調べて知識を蓄えて、現地に行って自分の世界を広げていきたい。

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