万博で中国の多様さを楽しんで

2025-04-07 14:44:00

公益社団法人2025年日本国際博覧会協会事務局国際局審議役 永野ひかる(談) 

2025年日本国際博覧会(以下大阪・関西万博)が4月13日から10月13日まで大阪の夢洲で行われる。中国国際貿易促進委員会によると、30の省、自治区、直轄市と深しん圳せん市が中国パビリオンで省・区・市単位の大小イベントを行う予定で、開催回数は過去最多になるという。今回の万博の見どころや中国パビリオンの準備状況などについて、本誌東京支局が公益社団法人2025年日本国際博覧会協会事務局国際局審議役の永野ひかるさんに聞いた。 

万博で視野を広げてほしい 

4月13日に大阪・関西万博がいよいよ開幕します。外務省のホームページにも最新情報が載っていますが、およそ165の国・地域・国際機関が参加することになっています。 

日本の人々にとっての見どころだと私が思うのは、参加するおよそ165の国・地域・国際機関の展示を一度に見ることができるという点です。今回の万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマなので、それぞれの国・地域・国際機関が「未来」をどう考えているかを一望できるのが魅力だと思っています。 

もう一つは、いろいろな国の人と出会えることでしょう。最近は「人々の視野が狭くなっているが、自分の興味のあることについてはとても詳しい」と言われます。これはSNSをはじめとするさまざまな要素がそうさせているのだと思いますが、そうした自分の視野がつくり出した枠組み(固定観念)を、各国から来たさまざまな価値観の人と出会うことで取り払い、たくさんの気付きが得られると考えます。 

留学と恩師の助言で中国語の世界に 

私は大阪の朝日放送で報道・情報番組を制作したり、コンテンツを海外と共同制作したりという仕事を長年してきましたが、2022年の7月から日本国際博覧会協会という組織への出向という形で万博に関わっています。この組織には約800人のスタッフがいますが、3分の1が政府関係者、3分の1が地方自治体関係者、残り3分の1が私のような民間人という構成です。 

私はこの協会の国際局という部署にいます。ここは海外からの参加国や国際機関の取りまとめが主な業務で、スタッフは80人くらいです。私たちはカントリーマネージャーと呼ばれるポジションにいますが、参加国のエントリーに始まり万博終了後のパビリオンを撤去するところまで、全ての流れを担当します。私が関わっている国は、中国、韓国、タイ、シンガポール、マレーシア、フィリピン、インドネシア、オーストラリアです。 

私は1990年代に中国の南京大学に留学しましたが、中国留学を考えたきっかけは、高校生のときの米国留学でした。80年代ですし留学先は田舎だったので、日本人を見たことがある米国人はほとんどいませんでした。私のことを中国人か韓国人だと思うのでしょう、「こんにちは」と言われることはほぼなく、たいてい「ニーハオ」か「アンニョンハセヨ」と声を掛けてくるのです。通学した高校は中西部にある大規模な学校で、それでもやはり白人、アジア人、黒人というカテゴリーが存在しました。そのときに「『アジア』という枠組み」の存在を初めて認識しました。それまで日本でしか生活したことがなかった私は、米国で暮らしたことで「アジア」という枠組みの大切さを痛感したのです。 

もう一つのきっかけは、高校のときの恩師のアドバイスです。高校生活の半分を米国で過ごした私は、大学受験のために日本に戻りましたが、進路相談で恩師に言われた言葉が、「これからの時代を見据えて、アジアの言葉を絶対に一つ覚えなさい」でした。その言葉と米国での体験がもととなり、現在の大阪大学、当時の大阪外国語大学の中国語学科に入学したのです。大学で中国語を学習するうちに中国への興味がますます深まり、南京大学への留学を決めました。 

この経験は万博での仕事にも役立っています。参加国関係者とのやりとりは基本英語ですが、中国の方とは中国語でやる方が手っ取り早いことも多く、これはこの仕事に就いて良かったと思う点でもあります。中国語が話せることに加えて大学や留学生活で中国について学んだことが多々あり、中国の文化や生活習慣も多少は知っているため、彼らが理解できない日本人の考え方を彼らの視点で説明することもありますし、逆に同僚に中国人のものの見方を説明することもあります。この組織で仕事を進める上で多少なりともお役に立てているのではないかと思っています。大学時代に戻ってそのときの自分に会えるなら、「あなたが頑張って語学を学んでいることは、将来絶対役に立つよ」とエールを送りたいです。 

中国の多様さを楽しんでほしい 

中国パビリオンは昨年2月2日に工事が始まりました。今年の3月初めに中国の国際貿易促進委員会の任鴻斌会長が視察に来られ、私もその場に立ち会いましたが、着工後およそ1年でここまでできたのかと、中国のパワーの偉大さに、感動で涙が出そうになりました。 

中国パビリオンの準備は、いままさに佳境です。建物がとてもかっこいいんですよ。他の国のパビリオンと比べても一番ではと思うぐらい、大好きなパビリオンの一つです。海外パビリオンの周りを取り囲む木製のリングとも色合いがうまく調和しています。 

しかし正直なところ、中国は昔ほど身近な国ではなくなっているという気がしています。それは政治的な理由もあれば文化的な理由もあるでしょう。そんな今だからこそ、日本の人々には中国がいかに多様で素晴らしい文化を持っているかを見てもらいたいし、私自身も期待しています。 

私は中国留学時代にかなり旅行をしました。それこそ東西南北、たくさんの町を見て回りましたが、全土を見ることはできていません。その後も旅行や出張で中国のあちこちには行ってはいますが、それでも全てを知っているわけではありません。ですから個人的にも中国パビリオンの日本側責任者としても、自分の知らない中国や多様性のある中国を驚きを持って見られるのがとても楽しみです。 

私の知る限り、中国パビリオンは本当にさまざまなコンテンツを準備しています。今回の万博は「未来」がテーマですが、中国パビリオンではITテクノロジーから過去の歴史に至るまで、中国はそれぞれをどのように捉えているかが紹介されているので、中国の現在、過去、未来を俯瞰できるのです。もちろん中国ならではのイベントも見られるし、関係者として来日している方たちと会うことで「今の中国」を知ることもできるでしょう。ありとあらゆる方向から中国を知る、という喜びを、来場した方々と分かち合えたらいいなと思っています。ネット社会で視野が狭くなりがちな今、万博というリアルな会場で中国をはじめとする諸外国について知ることで、私たち職員や来場した方々が新たな学びや気付きを得られることにも期待しています。 

永野ひかる

視野を広げることの必要性は、日中関係にも当てはまると思います。中国が一番良いと中国人が思い、日本が一番良いと日本人が思うことで、お互いの間に溝ができ、相手国に対してのリスペクトが減っていると個人的には感じています。ですから、万博会場でその国の人と直接会話をしたり、展示を見て触れて聞いたりすることで、そうした思い込みから少しでも解き放たれれば良いですし、特に若い人たちの間で相互交流が進めば、世界の今後の在り方は少し変わるのではないでしょうか。(呉文欽=聞き手) 

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