湖南の息遣い 感じた1週間
蔡夢瑶=文・写真
「8月19日、無人運転車の見学」。北海道から来た山野真子さんはその日の出来事とともに簡単なイラストをノートに記した。「タイヤを90度回転させられるので横に動ける。駐車とか便利」
中国国家インテリジェント・コネクテッド・ビークル(ICV)(長沙)試験エリアが、今回の中国旅行における彼女と仲間の最初の目的地だ。
8月18日、真夏の余韻に覆われた「かまど」状態の長沙が滋賀、静岡、北海道、東京などから来た日本の学生を迎え入れた。学生たちは湖南省人民対外友好協会が長沙と張家界の二つの地域の人民対外友好協会と共催した2025湖南中日青少年友好交流サマーキャンプに参加するために中国を訪れた。
湖南省人民対外友好協会専職副会長の王麗文氏は開会式のあいさつで、海と山を越えた出会いを通じてそれぞれの心に橋を懸け、中日の青少年が会話の中から共通点を見いだし、交流の中で友好の種をまいてほしいと述べた。

約1週間の旅行で日本の学生たちは未来感あふれる現代のハイテクに触れただけではなく、長い歴史を持つ無形文化遺産も体験し、生活感が色濃い街並みを歩き、自然が生んだ独特な景観も観賞した。そしてあらゆる角度から湖南に触れ、ありのままの湖南の姿を知り、地元の青少年と仲良くし、中国への理解を深めた。
科学と発展を体験
最初の目的地では、ユニークなデザインの無人運転車に若者たちの注目が集まった。スタッフが軽く操作するだけで、もとの位置のまま360度回転する車に感嘆の声が上がった。北海道から来た山田有悟さんは友達にその感動を分けた。「狭い空間でも機敏に回転できるなんてすごい技術だ!」。友達の影響で車に詳しい高校生の山田さんは、今後機会があれば関連分野の仕事に就いてみたいと語った。
「未来感」あふれるICV試験エリアで中国の無人運転車の進歩を体験したあと、学生たちは好奇心を胸に次の目的地に向かった。次は中国の農村を間近で見学だ。

長沙市望城区の楊橋村は整然と並ぶ家々と幅の広い道路で、多くの日本人学生の中国の農村に対する認識を一新させた。広島から来た細越華果さんは村人から楊橋村の「郷村振興」の話を聞きながら何度もうなずいた。「郷村振興は簡単にコピーできるものではなく、自分の村に合った発展方法を模索しなければなりません。日本でも同じ理念が提唱されていて、とても大事だと思います。楊橋村もまさにそうやって発展したのでしょう」
それから数日間、学生たちは馬欄山動画文化クリエーティブパークで中国のハイテク映像技術を体験したり、夜の黄興歩行者天国で活気のある「ナイトエコノミー」と都市のにぎわいを実感したりした。「ここでは最先端技術と美しい自然環境が調和していて、中国への印象が大きく変わりました。まさに百聞は一見にしかずですね」と滋賀から来た伊藤涼さんは述べた。
歴史と文化に触れる
湖南雨花無形文化遺産館の墨の香りが漂う工房で若者たちの交流が始まった。長沙の中学・高校生と日本の学生が長机を囲み、木版に墨をゆっくりとすりこんでいる。その間、中日英が混ざった会話があちこちで聞こえてきた。長沙市一中城南中学の崔軒康さんがややぎこちない日本語で同卓の日本の学生に活字印刷のポイントを伝えながら、活字版に刻まれた詩をゆっくり読み上げた。「日本語にも漢字があるから少しは読めましたが、ほとんどが知らない文字だったので、中国の友達に教えてもらえてよかったです」。北海道から来た吉田紋莉さんはその「小さな先生」に感謝した。
今回のイベントをサポートした静岡市日中友好協会の楊暁冬理事長は湖南省出身だ。大勢を引き連れての里帰りとなり、日本の若者に故郷の優れた文化を体験してほしかった。
日本の学生は中国の学生と共に活字印刷や絞り染め、油紙傘などさまざまな無形文化遺産の技術を見たり体験したりし、中国の歴史と文化を探求する心を持ちながら、長沙簡牘博物館を訪れた。多種多様な貴重な簡牘(文字が書かれた木簡や竹簡)から古代中国の政治、法律、そして日常生活を理解した。さらに小型観光列車に乗って橘子洲の美しい景色を味わいながら、ガイドが力強く朗読する毛沢東の『沁園春・長沙』に耳を傾けた。
簡牘博物館で漢代の医簡を見ていたとき、突然、「日本から来たの?」「ドラえもんやピカチュウは知ってる?」「ピカチュウって生きてるの?」と、8歳ぐらいの子どもが3人、どこからともなく現れ、学生たちは思わずほほ笑んだ。山野真子さんはノートにドラえもんとピカチュウのイラストを描いてあげた。滋賀から来た学生は、「信じていればピカチュウは君の心で永遠に生き続ける」と伝えた。両者はノートに互いのスマホの番号とスマートウォッチの番号を記し、「日本に遊びに来るときは連絡をちょうだい」「帰国したら電話してね」と言って別れた。
文化と自然に圧倒
旅の後半は張家界を訪れ、自然が生み出した独特な奇岩群を楽しみ、ご当地グルメに舌鼓を打ち、少数民族の独特な文化も体験した。
古風なたたずまいのレストランの前で、ミャオ(苗)族の衣装に身を包んだ「阿妹」(ミャオ族の女性)が太鼓を打ち鳴らしながら学生たちを出迎えた。青い布でレストランの入口を覆い、山歌と呼ばれる民謡を歌いながら学生たちに特産のブルーベリージュースを振る舞った。宴の席では「阿妹」たちが歌いながら竹筒を上から下に並べ、飲み物を流して客の茶碗まで注いだ。「流しそうめんみたい!」「おいしい!」「おかわり!」という歓声と拍手の中、場はにぎやかなムードに包まれた。

翌日は張家界国家森林公園に行き、ケーブルカーで上昇しながら「奇峰三千、秀水八百」と呼ばれる壮大で美しい景色を堪能した。そしてミャオ族の衣装に着替え、大自然を背景に記念撮影をした。「日本で見たことがない美しい景色をたくさん見られて、ますます中国が好きになりました」と神戸から来た長谷雅功さんは言った。
天門山に登り、長いロープウエーで雲海をくぐり、ガラスの桟道と999段の階段を体験した神戸から来た岩村美優さんは「怖いというより、美しい景色と桟道を歩く観光客の笑顔を見て、幸せな気持ちになれました」と感想を述べた。
旅の意義を実感
旅が終盤に差し掛かり、名残を惜しむ学生たちは同行したガイドやスタッフに寄せ書きでいっぱいのTシャツをプレゼントし、さらにショート動画も作成して、1週間付き添い協力してくれたことに感謝を示した。「谢谢!」「我爱中国!」「中日友好!」などと書いたカラフルな付箋が伝言ノートを埋め尽くした。
同行スタッフの一人、湖南星之旅国際旅行社副総経理の陳湘英さんはその日のウイーチャットのモーメンツに次のような文章を投稿した。「学生たちが実際に見て経験したことで、中国、そして湖南省を好きになっていく様子を目にして心が温まり、自分が続けてきたこの仕事の素晴らしさと意義をより深く理解できた」
東京から来た保坂真世さんは送別会で別れの言葉を述べた。「学生時代の最後の夏休みに湖南省で修学旅行のような楽しく素晴らしい思い出をつくれたことは、一生忘れられないでしょう。中国語学習者として、日中友好がさらに深まることを願ってやみません」