北京でお尻を叩かれて、大阪を思い出す
2025-11-17 14:36:00
奥中淳未
北京に来てまだ一週間ほど、地下鉄の乗り方にも少し慣れてきた頃のこと。中国語は「你好」と「谢谢」くらいしか言えなかったけど、友人とよく授業終わりに王府井とかの市内までよく遊びに出かけた。その日も地下鉄を降り、エスカレーターに向かって歩いていたときのことだった。
「バシッ!!」
乾いた音がした。前を歩いていた友人のお尻が叩かれたのだ。
「えっ、なに? 怖い……」
彼女は驚いて足を止めた。その目には涙が浮かんでいた。私はあまりにも突然の出来事に戸惑いつつ、そのシュールな状況に正直少し笑ってしまった。叩いたのは、中年のおじさんだった。結構な勢いで何かを言い放って通り過ぎていった。当時の自分らのレベルでは何言ってるかはほとんど聞き取れなかった。けれど、怒っているというよりは、なんだか笑ってたように見えた。痴漢とかではなさそうだけど、なんでお尻叩かれたのかはわからなかった。私たちは混雑した駅の中で、しばらくその場に立ち尽くしていた。
寮に戻って、ぼーっとその日にあったことを思い返していた。「あ。あの子、財布を後ろポケットに入れてたよな。」もしかして、「財布、気ぃつけや、取られんで」って教えてくれたんとちゃうか…。そう気づいた時、衝撃のどんでん返しを喰らった。その場で言葉で伝えようとしても、通じないとき、とっさに行動で示す。それが、あの老北京のやり方だったのだろう。たしかに、見知らぬ人の身体に触れるのは非常に失礼とされることもあるけど、その“失礼”の壁を越えてでも「伝える」ことを選ぶ。言葉の壁があっても、どうにかして伝えようとする姿勢に、心の熱さを感じた。
後日、留学中の私に会いに祖父母が北京に訪れたときのこと。地下鉄で、祖父がそばに座っていた二人組に服の袖をまぁまぁな勢いで引っ張られた。最初は驚いていたが、席を譲ろうとしてくれていると知る。そして、「なんや、びっくりしたなぁ」と笑う祖父。言葉が通じんくても伝える。その空気は、あの「バシッ」とお尻を叩かれた時と同じだった。
思えば、大阪人も「声大きくて、距離近い」と言われがち。実際に道を歩いていると、知らない人に突然話しかけられることもままある。電車で「傘忘れんと気ぃつけや」と注意してくれたり、居酒屋で「それ美味しそうやな、何頼んでんの?」と話しかけてくる時がある。
ちょっとびっくりするけど、その辺には親切や人への興味がある。
以前、ATMの前で操作に手間取ってたら、後ろに並んでたおばちゃんが「このボタン押したらすぐやで」と割り込んでまでして教えてくれたことがある。焦ったけど、とても親切だった。
北京での出来事は、その関西のコミュニケーションレベルMAXのような街だった。言葉通じへんやったら、行動で伝えたらええねん。少し強引で、少しぶしつけ。でも、そこには確かな思いやりがある。
最近よく耳にする「中国人は声大きくうるさいし、失礼」って言葉。けど、その言葉の中身が聞き取れるようになってからは、その行動への理解ががらりと変わる。パラダイムシフト。彼らには見える以上の熱い心がある。
北京も中国も、たしかに最初は少し怖い。けど、知れば知るほど、熱い心のある街になる。言葉が通じへんくても、行動で示す人たちがいる街。そんな「伝わらなくても、伝えようとする力」が、ちょっと強い街。そんな北京は大阪と似てる街。
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