言葉で心がつながる瞬間

2025-11-17 16:26:00

加藤由梨奈

 

語学学習者にとって嬉しい瞬間は何だろうか?その言葉の雑誌が読めたとき?ドラマの字幕を見なくても、イケメンや美女俳優の話していることがわかったとき?試験に合格して自慢できるとき?色々あるだろう。だが、最大の喜びは「相手に言葉が通じた瞬間」ではないだろうか。「私は中国語を話せるんだ。」と体感したあの日の出来事は、今でも昨日のことのようだ。

私は中国のアイドルに心を奪われて中国語の勉強を始めた。ステージ上の彼は、いつもきらきら目も眩むように眩しくて。でも目が離せなかった。見ているだけでは嫌、彼の話す言葉を理解したい、いつか会って話したい。「会えますように、話せますように。」その一心で中国語を独学でがむしゃらに勉強した。

彼に夢中になって2年が経った昨年12月、ついに時が来た。やっと彼に会えるのだ。訪中自体は2回目。1回目の訪中は短期留学だったが、今回は純粋な旅行。何を着よう、何を食べよう、何を買おう、彼に会ったら何と言おう、楽しみで楽しみで、まるで遠足前の子どものようだった。

イベント会場に着くと、中は既にファンの熱気で満ちていた。カッと体が熱くなり、私の胸の高鳴りも最高潮に。イベントの終盤、照明が落ち観客の歓声が渦巻く中、スポットライトの中に彼が現れた。日本語ではスター、中国語では明星とはよく言ったもので、彼だけが輝き煌めいていた。私は息をするのも忘れて、ただ見つめていた。

ステージ終了後、待望のファンとの直接交流の時間がやってきた。「バクバクバクバク、ドキドキドキドキ。」もう自分の心臓の音しか聞こえない。人生最大級の緊張の中、ついに順番が来た。やっと彼に私の中国語を聞いてもらえるんだ!よし、話すぞ。「私、日本から来たの。」

彼は目を丸くして矢継ぎ早に質問してきた。

「一人で来たの?すごいね!」

「中国語は自分で勉強しているの?」

「僕、日本に行ってみたいんだ。おすすめの場所はある?」

その声は不思議なほどクリアに耳に届き、彼の言葉がゆっくりと聴こえてきた。まるで2人だけの世界になったように、周りのざわめきが遠く引いていった。今まで中国人の友達が話していることもリスニング練習の文章も聞き取れず、何度も悔しい思いをしてきたのに、それが嘘のように彼の話す言葉が一言一句全部分かった。

気がつけば、私は中国語で返事をしていた。それもナチュラルに。伝えたい言葉がどんどん湧いてくる、声に出せる、話せる、伝わる!彼が嬉しそうに微笑むのを見た瞬間、私は自分が何故中国語を勉強しているのか、その答えが分かった。彼の言葉を理解し、自分の思いが伝わる。これこそが、私がずっと求めていた「言葉で心がつながる瞬間」だったのだ。

イベント終了後、「ほら見て。」と付き添ってくれた現地の友人が私に一枚の写真を見せてくれた。そこには、笑顔で言葉を交わす私と彼の姿が写っていた。幻のように思えた時間が、確かに存在した証拠だった。気がつけば、涙が頬をつたっていた。ただ彼に会えただけの嬉し涙ではない。「自分は本当に中国語を話せる」という揺るぎない達成感、外国語を話せているという自信を持てた喜びの涙だった。

私が中国語を学び始めたきっかけは、ただのアイドルの追っかけ。しかしその中で得たのは、言葉の壁を越えて人と分かり合える喜びだった。AIの発展により、誰もが瞬時に翻訳した言葉を手に入れる時代が、間もなく訪れようとしている。だが自分の耳で聞き、自分の口で伝え、心と心を直接つなぐ感動は、どんなに優秀なAIでも取って代わることは出来ないだろう。温もりは、生身の人間だからこそ感じられるものだ。

私はあの日を忘れることは出来ない。これからも勉強を続け、中国語をレベルアップさせる。もっともっと「言葉で心がつながる瞬間」を増やしていくために。

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