中国の文化を継承し,日本で展開することの難しさ
2025-11-17 16:34:00
久原向日葵
私は,中国変面芸術センターの王文強先生に師事し中国の伝統芸能の1つである変面師になるための修行をしている(執筆時)。中国にルーツを持たない私が中国の伝統芸能である変面をご教授いただくにあたり,考えたことが2つある。変面師を目指すに至った経緯とともに考えたことを以下に記したいと思う。
私は長崎県出身の日本人である(このような表現は適切ではないが,中国にルーツがないということを強調したい)。長崎県は他国からの影響を大きく受けた県であり,長崎市には新地中華街がある。2月には中国の旧正月を祝うランタンフェスティバルが開催され,その期間中はテレビCMが告知ばかりになるということもあり,中国という国は幼少期から身近に感じていた。
22歳の時,初めてランタンフェスティバルに足を運んだ。美味しい月餅や胡麻団子が食べられたら嬉しいなという軽い気持ちで訪れたのだが,私の人生を大きく左右するショーに出会う。それが変面だった。その時は中国の雑技団の方の演技で,次々と変わるお面,それなのに仕掛けが全くわからない。鑑賞してすぐに変面に惹かれた。こんなに一瞬で引き込まれたものは初めてだった。そして,私も変面師になりたいと強く思った。
しかし,変面は中国の伝統芸能であり,そう簡単に変面師になれるわけではないことを知った。
4年間どうにか変面師になる術はないかと探し続けた結果,たまたま居住地の区報で変面ショーを開催することを知った。それが中国で研鑽を積んだプロ変面師の王先生だった。そして,2024年春から王先生のもとで変面師になる修行を始めた。
修行を進める中で,変面の技術の習得だけでなく変面がどのような伝統であるかもご教授いただいた。そこで,私はいくつかのことを考えるようになった。
まずは,変面を正しく伝えることの難しさである。SNSでは「変面はお面が変わるだけのマジック」といったある種大道芸の一種として紹介されているのを見かける。何より,ランタンフェスティバルで変面を初めて見た時の私もマジックか何かだと思った。しかし,正しくは,川劇という劇の中の一部であり,お面や変面師の動きにはそれぞれ明確な意味とストーリーがある。
現在の日本では変面は「お面が瞬時に変わってすごい」という部分ばかりに注目されがちである。変面は日本ではそこまで認知度が高くない文化であり珍しいというのも,表面的な理解だけに繋がっていると考える。しかし,変面の全てに意味があるのだ。変面の奥深さを正しく伝えていく方法を模索したい。
次に,伝統をリスペクトすることの重要さである。現在日本で開催されている変面ショーでは,中国の文化を日本の文化と融合させて発信しようとする試みが見られる。しかし,私はリスペクトや深い理解に基づいた上で変面を展開すべきだと考える。川劇に基づかない変面は先述した単なる変面マジックショーに過ぎない。中国の伝統芸能である変面として日本で展開をするならば,日本で勝手な解釈やアレンジをするのではなく中国の本来のものをリスペクトするべきである。
勝手にオマージュして日本の文化と融合させるのは,軽薄だと考える。そのくらい,伝統芸能は尊重されるべきで,独断での融合は慎重になるべきである。
私は,起源については諸説あるものの,200年以上の歴史を持つ中国の伝統芸能である川劇としての変面を深く理解した上で,ひとつひとつの動きを意識しながら,「本物」の変面を皆さんに経験してもらえるように精進していきたい。
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