嫦娥4号の月の裏側探査 宇宙での国際協力さらに

2020-02-21 12:22:33

李家祺=文

 

古来より人類は、月にさまざまな幻想を抱いてきた。中国には「嫦娥奔月」(后羿の妻の嫦娥が不老不死の薬を飲み、一人で月に昇る)という伝説があり、日本にもかぐや姫の物語がある。

「潮汐固定」によって、月は自転と公転の周期が同じであるため、常に同じ面を地球に向けており、その裏側の大部分は地球からは観測できない。60年前、ソビエト連邦が発射した探査機「ルナ3号」が初めて撮影した月の裏側の写真によって、人類は月の裏の様子をおおまかにのぞくことができた。

60年後、中国が発射した「嫦娥4号」は月の裏側に着陸した世界初の探査機となった。人類はようやく、地球からは見えない神秘的な月面の謎を解くチャンスをつかんだ。

 

昨年128日、西昌衛星発射センターで、「嫦娥4号」を載せた「長征3BCZ-3B)」ロケットが発射に成功(cnsphoto 

 

宇宙開発史上の大きな一歩

今年1月3日、20日間以上も宇宙を飛行した「嫦娥4号」は、月の裏側にある予定着陸地点に土ぼこりを舞い上がらせて軟着陸し、世界中の宇宙ファンを熱狂させた。今回の着陸成功は、月の裏側への探査機着陸、月の裏側と地球との通信中継、月の裏側のパノラマ写真の近距離撮影、地球から持って来た生物の栽培(搭載した綿花の種の発芽)の成功など、数々の「世界初」を達成した。米国の全国放送会社(NBC)は自社サイトで、ブラウン大学の惑星科学者カーリピータース教授の次の言葉を引用している。「これは重大な成果だ。『嫦娥4号』は月にある未知の大地を探索する道を切り開いた」

1950年代から今日まで、人類が月に打ち上げた探査機はすでに100を超えているが、裏側に着陸し、探査したのは「嫦娥4号」だけだ。月の裏側への着陸はなぜそんなに難しいのか。

月の表面と比べ、裏側への着陸には主に二つの問題がある。一つは困難な通信、もう一つは複雑な地形。月本体が通信の邪魔になって、月の裏側は地上からの通信範囲外となっている。地球から直接裏側に電波を送ることができず、裏側から送信した電波も受信できない。また、平坦な表側と違い、裏側はでこぼこしたクレーターが広がっており、着陸に適切な広くて平坦な場所を見つけ出すのは難しい。

今回の着陸は、宇宙を研究する新たなチャンスを多くもたらした。月の裏には大気がなく、地球からあらゆる無線の干渉信号を遮断しており、唯一妨害となっているのは太陽の放射線だ。そのため、太陽が沈んだ後、そこは低周波電波による天体観測を行う絶好の場所となる。ビッグバンが残したわずかな痕跡を発見し、太陽や惑星、太陽系外の天体の研究、恒星の起源や星雲の進化の研究に重要な情報を提供するとみられている。

「嫦娥4号」の着陸場所は月面南極のエイトケン盆地のフォンカルマンクレーターだった。エイトケン盆地は現在知られている限り、太陽系内で最も大きく深い盆地だ。ここでは、より古い岩石の情報を得られる可能性が高く、月の化学成分の変化を理解するのに大きく役立つとされている。また、フォンカルマンクレーターは同盆地における典型的な地形で、トリウムや酸化鉄、二酸化チタンなどの含有量が高い。それとともに、同クレーターに含まれる物質構成の分布は、同地域の火山活動や月の地殻変動の手掛かりになる可能性があり、地殻変動の研究に役立つ。

 

月面探査車「玉兎2号」のパノラマカメラが撮った「嫦娥4号」の着陸船(新華社) 

 

着陸船の地形カメラが撮った「玉兎2」(新華社) 

 

成果の裏に科学者の苦労

「嫦娥1号」から「4号」まで、「嫦娥計画」には15年間の歩みがある。この15年間、ゼロから始まった中国の月探査技術は、大きな進歩を遂げ、世界レベルを目指して前進し、世界初を実現できるまでになり、イノベーションの足取りが止まることはなかった。2007年、「嫦娥1号」は中国初の月周回機として打ち上げに成功した。10年、「嫦娥2号」は当時世界最高だった解像度7の全月面写真を撮った。13年、「嫦娥3号」は中国初の月面着陸を果たした。そして今年、かつて「嫦娥3号」の予備衛星だった「嫦娥4号」は、見事な「出世」を果たした。

だが、この「出世」は容易ではなく、「嫦娥4号」の発射プロジェクトは数カ月にもわたった。着陸船(ランダー)と探査車(月面ローバー)「玉兎2号」からなる「嫦娥4号」には、中継通信衛星「鵲橋」というもう一つのパートナーがいる。地球と月の裏側との通信問題を解決するため、研究者チームは地球も月も見える場所に人工衛星を発射する、というプランを打ち出した。その場所は、地球と月のラグランジュ点L2(地球と月の間にある五つの平衡点の一つ。L2の軌道にある中継衛星は地球や月と相対的に静止したままでいられ、わずかな燃料で長期的な運行ができる)の軌道だ。これまで、地球と月のラグランジュ点L2は理論上でしかなく、実際に証明されたことはなかった。その軌道を見つけ出すため、研究チームは2年間を費やした。「嫦娥4号」の打ち上げ半年前、「鵲橋」は先に宇宙に飛び立ち、20日間余りの飛行を経て、世界で初めてL2の周りを周回するハロー軌道に入った。

「鵲橋」の強力な支援があるものの、月と地球間の通信にはタイムラグがあった。でこぼこの月面に軟着陸するため、高度なAI制御の着陸プログラミングが導入された「嫦娥4号」は、自動的に最適な着陸場所を判断し、障害物を回避することができる。それにより、四つのクレーターの間にある比較的平らな地面に無事着陸した。

このような素晴らしい成果を支えたのは、宇宙開発事業に身を投じた科学者たちだ。彼らは絶えず高みを追求し、実用を重んじ、困難を恐れずに高い目標に向かって進み、未知の分野を切り開き、人類の宇宙開発事業に中国ならではの知恵を貢献し、宇宙の探査と平和的利用の歴史に記念すべき1ページをつづった。

馬千里さん斉天楽さん夫婦は共に、「嫦娥4号」探査機の研究開発チームに所属している。「嫦娥4号」の発射プロジェクトのため、若い2人は結婚翌日に、四川省の西昌衛星発射センターに駆け付けた。この個性的な「新婚旅行」にはロマンのかけらもなく、2人はほとんどの時間をコンピューターの前で過ごした。毎日の夕食後に散歩しながら月を眺めることが、2人の幸せな時間だった。同発射センターの統計によると、長期にわたってプロジェクトの現場で働く既婚者のうち、8割が別居婚をしていたという。スケジュールに余裕がないプロジェクトを達成するため、休日も休まず、病気になっても働き、結婚休暇を延期するケースがよく見られた。

このプロジェクトの参加者にとって、「嫦娥4号」はまるでお腹を痛めて生んだ子どものようだった。「嫦娥計画」の呉偉仁チーフデザイナーはメディアの取材に対し、次のエピソードを語った。「嫦娥4号」を打ち上げロケットに載せる前に、あるスタッフが手袋越しに機器に触れ、涙をこらえて「行ってらっしゃい。ルートを外れたり、落ちたりしないようにね」とつぶやいた。この「子ども」が無事に月の裏側に到着することが、その時の彼らの一番の願いだった。

 

地球、月、中継衛星の位置を示すイメージ図(『深空探測学報』) 

 

「嫦娥4号」に搭載したサウジアラビアのカメラが撮った地球と月の写真(cnsphoto 

 

宇宙の科学探査に国境なし

「嫦娥4号」は中国の宇宙にかける夢だけではなく、全人類の夢を載せている。中国国家航天局(CNSA)によると、今回の月面裏側着陸プロジェクトで、中国は米国航空宇宙局(NASA)とデータを交換し、米国の月周回無人衛星ルナリコネサンスオービタ(LRO)を使って「嫦娥4号」を観測した。

また、「嫦娥4号」には、中国の科学機器9点とオランダ、ドイツ、スウェーデン、サウジアラビアの科学機器4点が搭載されている。着陸後、中国は上記の国々との協力研究プロジェクトを相次いで展開している。科学機器が取得した科学データについて、CNSAは、各国の宇宙開発機関や科学研究院、宇宙空間観測のファンたちとシェアする意向を示している。

なぜ「嫦娥4号」に他国の機器を載せるか。呉氏は次のように答えている。「イタリアのルネサンス期から、世界は科学的思考の時代に入ったと言える。中国はそのような近代科学技術の発展の恩恵を受けている。だから、責任のある大国として、中国は今、世界の科学の発展に貢献を果たすべきだ」

また、呉氏は次のようなエピソードを明かした。中国が中継衛星を発射し、月の裏側を探査する計画を知った米国の科学者は、中継衛星の寿命を延ばし、今後の米探査機の着陸を支援するよう中国側に求めた。それに対し、呉氏ははっきりと「問題ない」と答えた。

CNSAは、宇宙探査において中国は常にオープンな姿勢を取り続けており、世界の協力者と手を携えて共に宇宙開発を推進したいと考えていると明かした。また、中国の宇宙ステーションは22年前後に完成する予定だ。有人宇宙飛行や宇宙ステーションの建設で、中国はロシア、ドイツ、フランス、欧州宇宙機関(ESA)など複数の国機関と連携を図っている。これからも、宇宙ステーション建設において、設備開発、宇宙技術の応用、宇宙飛行士の訓練、航空宇宙医学などの分野で、国際交流と協力を展開する考えだという。

広大な宇宙には数え切れないほどの謎が潜んでいる。ここでは、科学の探査に国境の壁はない。

 

「嫦娥4号」が使う地形カメラを検査する研究者チーム(新華社) 

 

「嫦娥4号」の着陸成功を祝う科学者たち(新華社) 

 

火星着陸も視野に

1月11日、「嫦娥4号」の着陸船と月面探査車「玉兎2号」は互いに写真を撮り、プロジェクトの成功を示した。しかし、これは終わりではなく、新たなスタートを意味する。CNSAの呉艶華副局長によると、中国は今年末に、月面への軟着陸と月面のサンプルリターンを実施する「嫦娥5号」を打ち上げ、「探査計画」「着陸計画」「帰還計画」といった「嫦娥計画」3段階の最後のフェーズを成し遂げる予定。その後も次のような計画がある。「嫦娥6号」は月の極地探査と月面南極からのサンプルリターンを実施。「嫦娥7号」は地形、地質などを含む月面南極の全体的な探査を実施。「嫦娥8号」は月面基地や科学研究ステーションの建設や、月での3Dプリント技術や月面土壌を利用した家屋建築など、より重要な技術実証を行い、月面科学研究基地の共同建設を探る。

そのほか、中国は2030年頃までに火星、小惑星、木星探査など4回の深宇宙探査を実施することを予定している。また、20年に中国初の火星探査機を打ち上げ、火星着陸を実施する見込みだ。

宇宙への夢を求める道において、中国は世界と手を携え、走り続けていく。

 

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