生まれ変わった遼寧省の工業――新興産業と外資の集まる場へ
李家祺=文
遼寧省は、1950年代から長きにわたって中国の工業発展史に光り輝く成功をつづった。当時は現地で工業の発展が盛んで、中国初の国産送風機、国産ディーゼル機関車、国産CTスキャナーなどの重要な工業製品が開発・生産された。
90年代末、市場化が加速するにつれ、国有企業の収益が全体的に下降し、リストラや失業者数が急激に増加し、財政負担が日に日に重くのし掛かった。これらの問題を解決するため、遼寧省は改革の歩みを早めた。
イノベーションの資金投入を拡大し、モデルチェンジとアップグレードを求めた遼寧省は、古くからある国有企業が生まれ変わった。そればかりか、新興産業企業も現れ、外資系企業がさらなるチャンスを得て、中国企業が海外へ進出する道もますます広くなった。
よみがえる古参企業
1899年創業の中車大連機関車車両(以下、中車大連)は蒸気機関車やディーゼル機関車を自主開発した中国初の会社だ。6度にわたる大規模な技術変革を経た中車大連は、1万2700台に上る機関車の累計生産台数を誇る。中国の機関車保有量の半分以上を占め、技術も日々成熟し、国際市場からも認められた企業となった。
2006年、青蔵鉄道(青海省西寧市―チベット自治区ラサ市間)が開通した。世界で最も高い標高の場所にあり、線路も最長のこの高原鉄道は薄い空気と低い気圧のため、燃料が十分にエネルギーを放出できなかった。このため、当時使われていたハイパワー機関車は全部米国から輸入したものだった。
国産機関車に「高山病」を克服させるため、中車大連の研究開発チームは8年かけて青蔵高原の強い紫外線、薄い空気、長い坂道などの課題をクリアした。中車大連の上級エンジニアの魏宏氏は、「一つの技術的難題を解決するため、チームが14日間徹夜で作業したこともあります」と振り返る。
青蔵鉄道の延伸部分であるラサ・シガツェ鉄道が14年、正式に開通した。中車大連が開発した高原用ディーゼル機関車はこの線路の輸送業務を担当し、国産ハイパワー機関車はついに「中国の尾根」を運行した。=
青蔵鉄道を走る中車大連の高原用機関車(写真提供・中車大連)
中車大連副総経理の王大偉氏は記者にこう語った。「中車大連はすでに中国で唯一、ハイパワーディーゼル機関車、電気機関車、ハイパワー中速ディーゼルエンジン、ライトレール車両を自主開発し大量輸出する大型国有企業になりました」
技術のモデルチェンジとアップグレードを実現した中車大連は、09年に機関車20車両を納品する契約をニュージーランドと結び、初めて先進国に導入された。14年には南アフリカから、中国のディーゼル車の海外輸出として最多である、ディーゼル車232両の注文を受けた。
瀋陽送風機グループ(以下、瀋送)は中国初の送風機専門メーカーだ。副董事長の孔躍龍氏は、瀋送の製品が主に石油化学工業、石炭化学工業、電力、エコなどエネルギー・化学工業業界で用いられていると説明する。「コンプレッサーの役割は、心臓のようにさまざまな気体や液体を圧縮して運ぶことです」
孔氏はこう語る。「新疆ウイグル自治区のタリム盆地から上海まで4300㌔以上の距離があります。われわれはその区間に、4台の瀋送製コンプレッサーを設置した輸送ステーションを200㌔ごとに配置しています。こうして、西北地区で採掘した天然ガスが上海の各家庭に届けられるのです」。コンプレッサーを自主開発するため、瀋送は10年間を費やしたという。
「1990年代は大変でした。当時の中国の製造業レベルは遅れていて、顧客はよく海外から設備を購入していたので、注文がなかった時期もありました」と孔氏は回想する。
その時から瀋送は自主開発の道を歩み始めた。長年の努力が実を結び、瀋送は中国の重要な設備技術における100以上もの空白を埋めた。2015年、自主開発した中国初の10万立方㍍級空気分離コンプレッサーが性能試験をクリアし、ドイツのシーメンスやMANに次いで、当該製品を生産できる世界で3番目の企業になった。瀋送は科学技術研究で、毎年約3億元を投入しているといわれている。
瀋送の作業場はとても整然としている。約10年前、瀋送はトヨタなど先進的な製造業メーカーから生産管理モデルを学び、生産方式の改革を推し進めた。「われわれは自社の状況に基づいて戦略を調整し、生産工程をよりスリムにし、無駄をなくしました」と孔氏。
中車大連や瀋送などの古い国有企業は、改革の中で余分や非効率といった難病を克服し、革新の中で新しい成果を得たのである。
瀋送製の10万立方㍍級空気分離コンプレッサー(写真提供・瀋送)
まい進するロボット技術
18年2月に韓国平昌冬季五輪閉幕式の引き継ぎ式「北京の8分」が行われた際、24台の移動ロボットとダンサーが共演し、華麗なパフォーマンスを披露した。
平昌冬季五輪の「北京の8分」で登場した新松製のロボット(新華社)
このロボットを製造したのが、遼寧省で2000年に創業した比較的新しい会社、新松ロボット・オートメーション(以下、新松)だ。「パフォーマンスでは、ダンサーに合わせてロボットに複雑な動作をさせなければならず、遅れやずれが出ることは許されませんでした」。新松のブランド・広報部部長の哈恩晶氏は記者にこう説明する。「そのため、われわれは全く新しいナビゲーションコントロールアルゴリズムを開発し、ロボットの通信システムをバージョンアップし、あらゆるロボットが正確にコマンドを受信できるようにしました」
ロボットがロボットを生産するライン(写真提供・新松)
哈氏によると、新松は100余りの項目で国内業界のトップを走っており、独自の知的財産権を持つ産業用ロボット、移動ロボット、協働ロボット、特殊ロボット、サービスロボットという5大シリーズを100種類以上開発している。特に、移動ロボットは世界をリードする技術レベルを持っている。
革新と発展を推し進めるため、新松は中国の東北大学や中国科学院と提携して、東北大学ロボット科学・エンジニアリング学院を設立した。人材の育成を共同で行い、科学研究プロジェクトの連携、技術研修、研究成果の産業化など多方面で協力を展開している。
新松のデジタル化したスマートファクトリーには「人間」の従業員の姿があまり見掛けられず、高さ約3㍍の赤いロボットが一糸乱れぬ様子でアームをせわしなく稼働させている。さまざまなマークが記された作業場の通路には、大量の無人搬送車が音も立てずに各目的地に向かい、自動で荷物を受け取り、次の場所に配送する。
これは中国初となる、ロボットがロボットを生産するラインだ。このラインによって生産効率が大幅に向上し、年間5000台以上が生産されるまでになった。新松でよく見掛ける6軸の垂直多関節型ロボットを例に取ると、従来のラインでは5人が1日で1台完成させていた。しかしスマート作業場によって25分に1台という生産効率になったとともに、精度と安定性が高いロボットによる組み立てのおかげで、品質もより向上した。
中国製ロボットの海外市場進出の道を切り開いたのもこの会社だ。10年、新松の移動ロボットがゼネラル・モーターズ本社に輸出された。18年、新松の重作業用移動ロボットが世界最大のコンテナターミナルであるシンガポール港に導入された。
哈氏によると、新松の製品は30以上の国と地域に輸出されており、「一帯一路」沿線諸国の17カ国・地域とは緊密な協力関係にある。
日系企業もより注目する
遼寧省と地理的に近い日本は同省の発展に多くの力を注ぎ、またより大きなチャンスを得ている。
大連市金普新区は東北地区の対外開放の最前線だ。国家クラスの経済技術開発区・保税区・輸出加工区・観光レジャー区などの重要な開放機能を一体化したこのエリアには、1800社余りの日系企業が集まり、同エリアの外資系企業数の36%を占めている。
大連の金普新区商務局日本処責任者の馬克緯氏は取材に対し、「大連の発達した交通と港湾物流は、日系企業にとって大きな魅力でしょう。われわれは10項目の対日資本・企業誘致特別政策を取っており、さらに東京に事務所を設け、企業により多くの政策扶助と産業支援を行っています」と語った。
ネブライザーの製造現場(写真提供・オムロン)
「大連は外資誘致のために力を入れてきたと思います。投資効率が高いと言えるでしょう」。オムロン(大連)の経営企画部部長の森田将崇氏は取材に対し、こう語った。「弊社は1993年に設立されました。大連に長く根付いて感じたのは、ここでは外資と内資が平等で、政府は企業のために、すぐに意思疎通を図って問題を効果的に解決するルートを設けており、政府と企業間の協力が緊密です」
中国の経済発展モデルの変化に伴い、金普新区内の日系企業もモデルチェンジとアップグレードの時期を迎えている。
馬氏によると、日系企業の新区に対する投資はすでに従来の大規模な直接投資から、都市建設、医療・養護・健康、商業貿易・物流、健康管理、テクノロジーコンサルティングなどの多分野・多形式による経済貿易協力に変化している。
2017年から現在まで、金普新区ではTDK、徳泰馨瓷環保科技社など計80近くの新規・増資プロジェクトが実施されている。このほか、30社余りの企業が相次いで増産・拡張しており、固定資産投資総額は6億㌦近くに及ぶ。THK、TDK、サンケン電気など多くの昔からの日系企業は、大規模な設備投資、生産ラインの一新、オートメーション化レベルの向上などによるさらなる生産効率アップを図っている。
中国の消費市場の発展により、ますます多くの日系企業が「生産輸出」から「現地研究開発」に転換して、現地化戦略でより多くの消費者を獲得しようとしている。
オムロンヘルスケアグループ唯一の海外研究開発拠点がまさに大連にある。現在、オムロン(大連)は事業再編により、金普新区に研究開発・生産・販売が一体化した発展の枠組みをつくり上げた。
「中国の顧客のニーズは常に高まっています。われわれはこのチャンスをつかんで、さらなる発展を遂げようとしています」と森田氏は語る。今年3月時点で、同社の売上総額は17億6000万元に達している。同社はさらに25~27年の売上目標額を60億元としていて、中国における事業規模を現在の3倍余りにまで拡大しようとしている。
敷地面積28平方㌔の新日本工業団地第1期が、今年6月に金普新区に完成した。
日本電産は金普新区と提携を結び、5億㌦を投資して、工業団地で新エネルギー車駆動モーターの生産ラインと研究開発拠点を建設し、来年から一部生産を開始する予定だ。これは20社余りの川上・川下産業の中国系・外資系関連企業をけん引することになる、と馬氏は語り、こう続けた。「金普新区は大連のイノベーション発展にさらに大きな力を注ぎ込んでいます。新区の外資系企業、特に日系企業は先進的な生産技術の経験をもたらし、多くの産業労働者、ミドル・ハイクラス人材、外国語人材や科学研究人材を育成したほか、より多くの雇用を生み出しています。長期的にみると、同地域の大学の魅力を高め、より多くの若年人口の流入を促すことになるでしょう」
森田氏は大連での将来を次のように語った。「弊社は今後も、中国の大成長に力を入れていきたいです。また、商品や技術、人材などの『大連クリエーティブ』でグローバル展開を考えていきます」
大連港(写真・李家祺/人民中国)