中国共産党史を知り 今の中国を理解する
元NHKアナウンサー 木村知義=文
世界を一つの「妖怪」が徘徊している、「中国脅威論」という「妖怪」が。
マルクスの『共産党宣言』の文脈を借りて語るなら、こうなるであろうか。
日本をはじめ米、英、豪など各国から伝えられる日々の「出来事」の何もかもが、中国への対抗と競争という力学と文脈で語られる時代である。
最近の「出来事」でいえば、20年に及ぶ米国のアフガニスタン軍事介入からの撤退に際してもバイデン大統領は、「中国との深刻な競争」を挙げて、政治、経済から外交、安全保障に及ぶあらゆる力を中国に向けることが必要だという考えを示した。自ら招いたアフガニスタンへの介入の失敗から退く理由を、中国への対抗と結び付けるなどというのは誰が考えても詭弁であり無理があるが、いまや、中国への対抗と警戒感で上塗りすればどんなことでも理由付けができるというわけだ。こんな非論理的なことが日々再生産される状況になっている。言葉を変えると、中国とどう向き合うのかを巡って、いま世界は大きな試練の時を迎えているのである。
不可欠な中国共産党理解
「中国とどう向き合うのか」という試練の核心を成すのは、中国人民を指導する執政政党、中国共産党が何を成し、どのような道を歩み、どこへ行こうとしているのかをどれほど深く理解できるかということに尽きる。
1949年の中華人民共和国誕生の世界史的意義は繰り返すまでもないが、忘れてならないのは、何千年にも及ぶ中国古来の歴史、文明に根差す思想、哲学そして統治理念と西欧で生まれた外来のマルクス主義革命理論が融合して、中国独自の社会主義実践理論へと昇華した歴史的意義である。西欧に比べて資本主義の未成熟な中国社会において、マルクス主義の書物の中で描かれていた革命の「形」を超えて、独自の革命の道を歩むことが可能となった意義を改めて知ると言い換えてもいい。中国の歴史の年輪に根差すことによって、極めて内発性の高い革命闘争に成長することができたこと、それが共産党への信頼と支持を生む源泉になったのであり、それを導いたのが中国共産党であったことは歴史に刻まれるべき重要な意義を持っている。このように、「中国の特色ある社会主義」というのは、現在の中国の姿を語るだけではなく、中国革命の淵源にまでさかのぼり、そこから現在そして未来までを貫く重要な意味を持つキーワードだということである。
そして、内から湧き起こる強い内発性に基づく中国革命だったことが、中国にとどまらず、支配と抑圧に苦しむ世界の多くの人々に共感を呼び起こすことになった。とりわけ第2次世界大戦後、新植民地主義のくびきに苦しむアジア、アフリカ、ラテンアメリカの人々にとって、中国革命が、そしてそれを導いた中国共産党の存在は大きな希望のともしびとなったことは間違いない。
新中国誕生からそれほど時を経ていない1955年、アジア・アフリカ会議(バンドン会議)が開催された。会議に集った各国が、反帝国主義、反植民主義、民族自決、国の大小を超えて平等であること、紛争の平和的な解決を目指すことなどを共通認識としたことで、戦後世界を動かす、もう一つの大きな流れを形作ることになった。バンドン会議の開催とこれらの原則の共有に当たって中国が果たした役割も、中国革命への共感という文脈でこそ理解できる。中国共産党の下で革命の道を歩む中国は、常にアジア、アフリカ、ラテンアメリカの民衆の側に立って人々を勇気付ける役割を果たしたのだった。
もう一つ。共産党に指導された紅軍が革命途上で大切にした「三大規律、八項注意」は、人民に依拠し、人民に奉仕するという中国共産党の精神の原点ともいうべき重要な作風、倫理性として今も忘れてはならないものだろう。
このように、中国共産党が果たしてきた役割とその意義を見つめてみると、現在の中国の在り方、そして、これからの中国の行く道に関わって語られることの精髄は全て歴史の連続性の中に息づいていることに気付く。そして今、改革開放40年の経験と成果の上に「新時代の中国の特色ある社会主義」という新たな段階に歩みを進めることになった。
外に目を向ければ、「ソ連解体」そして「冷戦の終焉」が、あたかも資本主義の勝利、成功体験として語られる中で、世界はグローバリズムの時代へと大きく様変わりした。
「共に豊かに」の道
この時代の変容の中で何が起きたのか。
「強欲資本主義」というべき金融の肥大化と「帝国」とさえいわれるIT・情報産業の寡占、巨大化が社会を覆い、富の偏在の歪みと矛盾に「呻吟する資本主義」の姿をさらす時代となったのである。全てを競争と市場に委ねる新自由主義に支配された資本主義の行き詰まりは、誰が市場の「見張り番」となるのかという「問い」を資本主義世界に突き付けることになった。
こうした時代状況を踏まえれば、中国共産党の下で「共同富裕」(共に豊かに)が掲げられたことの意味は重い。つまり、改革開放によって成長と発展の道を突き進んできた中国にとっては、貧困問題の基本的解決を果たす一方で、豊かさと成長を追求する中で生じた、行き過ぎた市場主義をどう制御するのか、公有制と非公有制経済をどう調和させて社会の均衡ある発展を図るのか、富の新たな分配の仕組みを社会に根付かせ、その先に全ての人々にとっての豊かな社会をどのように実現していくのかという、社会主義の新たな段階への挑戦に踏み出す機が熟したということでもあるだろう。この先駆的な挑戦は当然ながら、そこに暮らす人々の思想、哲学すなわち人間の生き方をも変革していくことを伴う大変な取り組みとならざるを得ない。これがつまり「新時代の中国の特色ある社会主義」を目指す新たな長征への道ということになる。
雲南省曲靖市会沢県大海郷小江村在住の石元順さん一家は昨年脱貧困を果たし、80平方㍍、3LDKの新居に引っ越した。新居で祝う初めての旧正月にと、3人の娘はガラス窓に吉祥柄の切り絵を貼った(新華社)
このように経済、社会と人間の在り方を変革し、高めていく営みを重ねることによって、外に向かっては「一帯一路」イニシアチブに基づくグローバルな規模で「共同富裕」を目指す原動力になるという構図である。さらに、人類が直面する地球環境をどう守り持続可能な世界を実現していくのかというグローバルな課題とも深くつながることになる。こうした取り組みの全てを総合するものが「人類運命共同体」の提起だと捉えると、中国共産党が目指す世界の未来の姿がよりくっきりと見えてくる。
中国共産党が主導して挑む現代の新しい社会主義像を世界に示すことで、地球の全ての人々が平和で共に豊かに暮らす世界の実現に向けての重要な「とば口」に立つことになる。中国の経験が、イデオロギーや体制を超えて、あるいは経済の「先進」と「後進」の別なく地球規模で、われわれの進むべき道についての重要な示唆をもたらすことになるだろう。このように思考を進めると、中国と向き合うというわれわれの営みは、いま重要な歴史の画期に立ち至っていることをあらためて実感するのである。