この10年の変化―DX(デジタル革命)大国となった中国
文=小林正弘
清華大学法学博士
Genuineways.Inc ブランド保護顧問
私は2008年から北京で生活を開始し、今年で14年目となる。今から10年前となる2012年は清華大学法学院博士課程で中国民法を研究する傍ら、JICA北京事務所のインターンシップ生として法整備支援の実際の取り組みを体験する貴重な機会を頂いた。当時、日本の法的知見を中国国内の立法作業に生かすことを通じて中国のよりよい社会秩序の構築と発展に貢献できる道があることを知り、「私も将来、日中間の法律分野での交流に携わりたい」、との夢を抱いた。
この十年、中国社会はすさまじいスピードで変化し続けている。その変化を大きく加速させ、現在のDX(デジタル革命)のきっかけとなったのは、アリペイに続き2012年前後に登場した電子決済機能付きスマートフォンSNSアプリ・WeChatの社会全体への急速な普及と各種電子商取引の発展だろう。これによって一般市民の生活は驚くほど便利になった。ショッピング、シェアサイクル、外食・出前の注文、タクシー手配など、スマートフォン一つで何でもできるようになり、人間関係(友達の輪)を広げるための重要なコミュニケーションツールにもなっている。
電子商取引の発展は、農産物のスマートフォンによるライブ中継販売などを通じて農村部の生産者と都市部の消費者をダイレクトにつなぐことを可能にし、農村に新たな活力をもたらしている。また、ティックトックやzoomのように中国発のイノベーションが世界を席巻する新たな現象も見られるようになり、世界各国の人々とのつながりも一層密接化している。
他方で、電子商取引の発展に伴い、食品安全、詐欺、生命・健康被害、個人情報取扱い等に関する消費者トラブルが激増し、深刻な社会問題となった。このような問題を解決するため2018年には世界に先駆けて電子商取引法が制定され電子商取引プラットフォーム事業者の法的責任が強化されると共に、2020年に制定された民法典にて個人情報保護が強化され、2021年には個人情報保護法が制定されるに至っている。その背景には、中国国民の質の高い生活へのニーズの高まりと権利意識の向上がある。
電子商取引関連紛争をオンライン訴訟手続きによって専門的に処理するインターネット法院やオンライン紛争解決(ODR)の先進的な取り組みも大きな変化といえよう。筆者自身も子供のオンライン授業でトラブルとなり、スマートフォンアプリを通じて訴訟を提起し迅速にトラブルを解決することができ、隔世の感を覚えた。
このようなDX大国・中国の状況並びに消費者保護を目的とした法整備の成果と多様な権利救済システム構築への先駆的な取り組みは、日本を含む世界各国の発展にも重要な知見を提供するものであり、真摯に学ぶ必要がある。
「中国網日本語版(チャイナネット)」2022年3月29日