「処方箋」となり得る中国式民主

2022-04-15 11:36:39

拓殖大学教授 富坂聰(談)

 

中国式民主を報道する際、欧米や日本などのメディアは「普通選挙権がない、少数民族の権利や利益を侵害している」などの否定的な見方をすることが多いが、これは西側諸国の民主制度と理念を機械的に中国に当てはめているだけであり、中国式民主と西側の民主の違いをあら探ししているにすぎない。西側社会は、中国式民主の原点の「全ての人々の生存権と発展権を保障する」という点について全く理解していない。 

われわれはどの民主主義が完全に正しいと断言はできない。例えば「西側の民主こそが正義であり、中国式民主は正義ではない」といった、単純に白黒をつけようとする行為はまさに「短い定規で巨体を測る」ようなものであり、正解を導き出すことは永遠に不可能だ。 

第2次世界大戦後、世界各国はこぞって民主主義を選んだ。なぜなら行き過ぎたナショナリズムが戦争をもたらし、自らの利益にならないと判断したためだ。この観点に沿うならば、どの民主主義が正しいかを判断する際には、それが国民の利益に合うか否かを見極める必要がある。 

  

生存権保障から発展権保障に 

中国式の民主主義には、生存権の保障と発展権の保障という二つの大きな特徴があると私は思う。生存権は国民に安心感を与えるもので、発展権はそこから一歩進んで、明日は今日よりも良くなると思わせるものだ。これらは国民の幸福感と密接に関係していて、自分が進歩し、人生に希望があると感じさせる要素となっている。これも人権における重要な部分と言えよう。 

中国政府は貧困脱却という事業に、何世代にもわたって粘り強く取り組んできた。ここ数年の新型コロナウイルスとの闘いにおいては、ダイナミックゼロコロナの方針を貫いている。これらは間違いなく、生存権保障の具体例だろう。 

また、最近の中国経済の政策の多くは、発展権の保護と密接に関係していることがうかがわれる。例えば今年の政府活動報告の中では、人々の収入増加と経済成長の同期が期待できる目標と、所得分配制度改善の課題が明確に示されていた。このことから、中国はもはやGDP(国内総生産)成長のみを追い求めず、中所得層拡大のための明確な目標と政策を持つことが見て取れる。 

今、世界はボトルネックの時代に入り、突破口を求めている。ロシアとウクライナの情勢からも分かる通り、ボトルネックに陥ったときの人々の閉塞感と不安感は、状況をますます危うい方向へと進める。われわれはどのようにこの状況を打破すべきなのだろうか。昨秋、習近平国家主席は「共同富裕」の目標を強調し、岸田文雄首相も就任後に「新資本主義」を提唱した。このように貧富の差を縮め、中所得層を豊かにして拡大し、人々の発展権を保護するという点において、今の世界各国の目標は非常に似通っている。 

  

長期的計画に長けた中国式民主 

しかし、現在の西側諸国はボトルネック打破のための有効な手段をいまだ考えついていない。私は中国の出した「処方箋」の効き目を非常に注視しており、引き続き観察したいと思っている。中国式民主には以下のような優位性があると思う。 

まず、中国の民主制度は専門家からの意見を多数採り入れ、実際の問題を反映し、専門性がありつつ世論をも考慮することができるという点だ。例えば今年の政府活動報告では、中国が現在直面している経済発展の困難――例えば消費の低迷、サプライサイド改革が正念場を迎えているなどの難題を列挙し、発展において何が足りないのかを明確に認識している。報告には危機意識とその対策の双方が書かれ、西側諸国の具体性を欠く施政演説と比べてもかなり明確だと言えよう。 

第2に、中国は長期的な目標の策定に長けているという点だ。例えば「二つの百周年」を節目とする奮闘目標は、中国共産党建党100周年に小康社会の全面的完成という目標を達成するため、国を挙げて数世代にわたり取り組んできた。これは、トップが変わり続ける西側の民主とは大きく異なる。 

西側民主の普通選挙制度は、対立候補を否定し、政権交代のたびに政策が大きく調整される。前政権の政策の維持は非常に難しく、全てがゼロから始まる。また、選挙に勝つために候補者はしばしば有権者に向けて短期間での公約実現を約束する。例えば昨年の日本の衆議院選挙を例にすると、さまざまな政党候補者が支持を取り付けるため、当選後は多額の補助金を出すとか、大規模な国家投資をして経済発展をけん引するなどと言ったりする。そんな状況を憂えた財務省のある役人は、政治家は選挙に勝つために日本の財政の長期的安定を無視していると『文藝春秋』に寄稿した。候補者の争いは、人々の欲するものや解決すべき課題について自ら考え、導いた答えを有権者に示すためのものではもはやなく、策を{ろう}弄していかに勝つかを競うものになってしまっている。このような西側の民主が長期的戦略を確立し、それに向けて取り組むのは至難の業だろう。 

  

日本企業を変えたファーウェイ 

以前、日本では多くの企業が上場を目標にしていたが、上場企業の経営者の任期は2、3年にすぎない。このような状況では、在職期間中に長期的な収益を狙った投資計画を立てることが難しく、株主の説得も難しい。極端な場合は、企業研究所の売却をして短期的な収入を増やし、配当を上げて株主の歓心を買うといった、長期的発展を損なう決定をしたりもする。こうした行為は、日本企業の競争力の低下を引き起こしている。 

こうした状況を避けるべく、自主的に上場を放棄したり上場廃止したりする企業も出てきた。実はこうした傾向は、日本企業が中国のファーウェイ(華為技術)を研究し始めた頃から始まっているのだ。ファーウェイが日本企業の視野に入るようになったのは、米国から「制裁」された頃からだが、非上場を貫く経営姿勢に驚くとともに、長期戦略の立案や研究開発能力の強化など多くを学んだ。経済界の新たな動きが、今後政界にも新たな動きをもたらすのではないかと私は注目している。 

1949年に成立した中華人民共和国は、まだまだ若い国家と言えるだろう。建国後数百年もたつ他国と違って、いまだ蓄積と学習の段階にある。 

今年の2月25日、習近平主席は中国共産党中央政治局集体学習会で「われわれは一つ目の百周年を節目とする奮闘目標を実現し、小康社会を全面的に完成し、絶対的貧困の問題を歴史的に解決し、わが国の人権事業発展のために、より強固な物質的基盤を築いた」と発言している。このことからも、中国式民主の発展は絶えず蓄積と進歩を繰り返す段階だと分かるだろう。もし西側世界が「民主」の固定概念から脱却し、発展的視点をもって中国式民主を見ることができれば、少なくとも長期的戦略を立てるに当たっては充分参考になるだろう。 

 

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